一般社団法人 グローカル政策研究所

阿部孝則の『寡黙な麻雀王者』

第15回連載

北海道の天元戦を劇的に優勝した安藤さんと共に私達は東京へ帰ってきます。
またいつも日常にそれぞれ戻っていくのですが、やはり安藤さんの体調面が気になります。

鳳凰位戦も後半戦に入り挑戦者3名のゆくえも気になるところです。
そして私にはMONDO21麻雀プロリーグへ出場オファーがきます。
MONDO21麻雀プロリーグは各団体のタイトルホルダーやそれに匹敵する活躍をしているプロに芸能界で最も強いと言われていた萩原聖人さんを加えた12名で行うリーグ戦で当時としては唯一の放送対局でした。
ここに出てくる人達は各団体のトッププロしかいません。
私は自分の力が自団体のみならず他団体のトッププロと言われる人達にも通用するのか?放送対局でも平常心でいつも通りの麻雀が打てるのか?
そんなことを考えていた私ですが、しかし勢いというのは恐ろしいものです。この時私には確実に波がきていました。
放送対局ということで極度に緊張していたものの、このトッププロの人達を相手に安定した成績で予選、準決勝を勝ち上がりついには決勝まで駒を進めていくのでした。
鳳凰位戦がそうだったように私は今回もいけるんじゃないか?そんな風に思っていました。
決勝は4回戦で短期戦といえます。
ここまで来たら思い切りやるしかない!と勢い込んで臨んだ決勝戦でしたが結果は1人のベテランに4連勝を許すという全く不甲斐ない成績で終わってしまいます。
ここまで相手の出来が良いとどうにもできなかったが本音ではあります。
ですが何とも言い難い悔しい結果となってしまいました。
一方でトッププロと言われる先輩方に混じっても遜色なく戦えている。
自団体だけでなく他団体のトッププロとも渡りあえる力がついてきている。
と感じることができ今後の自信に繋がる結果となります。

MONDO21麻雀プロリーグが終わり安藤さんの入院先に報告を兼ねてお見舞いに行きます。
数ヶ月前にも一度行っていたのですがその時は比較的お元気な様子でした。
病室をノックすると奥様が出ていらして今は薬で眠っていますのでもしかしたらお話は出来ないかもしれません。と言われます。
中に入ると前回よりかなり痩せてしまった姿の安藤さんが静かに眠っています。
伝言用のノートがベッドの脇に置いてあったので私も一言書いて帰ろうとすると、なんと安藤さんが目を覚ましてくれたのです。
掠れた声で『おお阿部か、MONDOはどうだった?』
私『すみません、負けました』
安藤さん『誰が勝った?』
私『土井さんです』
安藤さん『そうか』
私『もうすぐ鳳凰位戦があります、次は勝って報告に来ます!』
安藤さんは小さく頷き私は病室を後にしました。

鳳凰位決定戦最終日の数日前
仕事中の私に多井さんから突然の電話が入ります。
私『もしもし?』
多井さんは電話の向こうで鼻を啜っているように聞こえます『……じゃった…』
私『え?もしもし?何?』
多井さん『…死んじゃった…安藤さん…』
私『……‼︎』
多井さん『今…安藤さん家…』
私『わかった…ありがとう、後で行くからそれまで色々頼むね!』
遂にこの日が来てしまった…。
安藤さんはまだ55歳じゃないか…あまりにも急で早すぎる。
これで1つの時代が終わった。
そんなふうに思わずにいられない平成17年の春のことでした。

第16回連載へ続く...

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