一般社団法人 グローカル政策研究所

町田徹 21世紀のエピグラム

去年、脱原発を実現したドイツ
年間を通した電力事情とは?

 来週の月曜日(3月11)には、東京電力の福島第一原発事故から13年の節目を迎える。周知の通り、福島第一原発事故は津波によって原発に不可欠な冷却機能を失ったことが主因で、メルトダウン(炉心溶融)や水素爆発を引き起こし、旧ソビエト連邦のチエルノブイリ原発事故と並ぶ人類史上最悪の「レベル7の原子力事故」に至ったとされている。
 今週は、この福島第一原発事故を機に、「脱原発」に舵を切り、ついに去年(2023年)4月、これを実現したドイツの電力事情を概観しておきたい。

 始めに、2023年のドイツの電力事情の第一のトピックとみなすべき、「脱原発」の実現の経緯だ。ドイツはチエルノブイリ原発事故もあり、もともと緑の党など反原発意識が高い国だった。そうした中で福島第一原発の勃発を看過できない重大な教訓と捉えて、当時のメルケル政権が脱原発を決断した。それまでは原発が17基あったが、これを段階的に削減していくことを決めたのである。
 そして、昨年4月、最後まで稼働していた3基の原発の送電網から切り離し、「脱原発」を実現した。
 この結果、ドイツのブラウンホーファー研究機構によると、2023年の原子力発電は6.7TWhとほぼ前年の5分の1に激減した。

 もう一つ、激減したのが、石炭火力発電だ。こちらは一昨年(2022年)のウクライナ危機が、去年(2023年)は、褐炭火力が108 TWh、硬炭火力が58.2TWhに急増していたが、去年(2023年)はそれぞれ、81.2TWh、36.8TWhとなっている。
 また、前年、石炭火力発電を急増させる直接の原因になったとされているガス火力発電は、わずかながら、さらに縮小した。去年(2023年)の発電量は45.8TWhと前年比で1.1TWh減にとどまった。
 この背景にあったのは、ドイツの電気代の深刻な高騰で引き下げる必要があったことと、一昨年は周辺国が電力不足で輸出需要が旺盛だったためだとみられている。

 一方、そうした原発の停止や火力発電の絞り込みと対照的に、一昨年の242TWhから去年260TWhと発電量を増やしたのは、風力や太陽光、水力といった再生可能エネルギーだ。
 中でも目覚ましかったのが、去年の発電量が前年比で14.1%増の139.8 TWhの生産となった風力発電だ。このほか、太陽光も59.9TWhと前年比で1.4%増、水力も19.5TWhと一昨年(16.3TWh)を上回った。
 こうした各電源の増加によって、結果として、再エネはドイツの電源に占める割合が過去最高(56.9%、前年は50.2%)となり、全体のほぼ6割に迫ることになった。

 最後に、ドイツが電力の純輸入国になったことを強調しておく。ドイツは2002年以来、電力の純輸出国だった。実際のところ、一昨年(2022年)も27 TWhの輸出超過だった。が、去年(2023年)は11.7 TWhの正味輸入超過に転換した。
 ちなみに、去年のドイツの大口の電力輸入元は、デンマーク(10.7 TWh)、ノルウェー(4.6 TWh)、およびスウェーデン(2.9 TWh)だった。一方、ドイツはオーストリア(5.8 TWh)とルクセンブルク(3.6 TWh)に電力を輸出した。

2024年3月4日

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