一般社団法人 グローカル政策研究所

町田徹 21世紀のエピグラム

禁断のウクライナ支援の財源?
凍結したロシアの在外資産の行方は。

 「アプリリア・サミットまでに、国内法と国際法に照らして、凍結しているロシアの政府資産をウクライナ支援のために活用するのに可能なすべての手段を詰める」--。
 主要7カ国(G7)首脳は、ロシアのウクライナ侵攻から2年が経過した先週の土曜日(2月24日)、オンライン会議を開催。閉幕後に、ウクライナへの揺るぎない支援を約す共同声明を発表した。その中に盛り込まれたのが、西側が凍結したロシア資産のウクライナ支援への活用策を探るとした、この一文だ。
 改めて、期限を切って、イタリアで開催するG7首脳会談までに成案を得る方針を掲げたことは一定の前進と言えるかもしれない。アプリリア・サミットの開催日程は、今年6月13日から3日間だ。
 しかし、トランプ前米大統領とその意を受けた米議会下院共和党の反対で、米国のウクライナ支援の実現の目途が立っていない中で、さらに4カ月近い時間を要することには、大きなリスクもある。弾薬不足に苦しむウクライナをより窮地に追い込む恐れがあるからである。

 ロシアのウクライナ侵攻は3年目に突入したが、この間、西側諸国は、ロシアとの直接の軍事衝突を避けて、ウクライナへの軍事・人道・財政支援とロシアに対する制裁によって、ウクライナを側面支援する戦略を採ってきた。紛争が拡大し、核戦争を誘発することを恐れる半面、武力で一方的に主権国の権益を侵すだけでなく、民主主義陣営を圧迫する行為は決して許容できないという判断があったからだ。

 しかし、侵攻開始から丸2年が経ち、経済制裁がロシアの経線能力を削ぐにはまだ数年単位の時間がかかることが明らかになっているうえ、西側諸国にはいわゆる支援疲れも目立っている。
 特に深刻なのは、米国の動向だ。すでに昨年末にウクライナ支援予算が枯渇したにもかかわらず、11月に迫った大統領選挙で返り咲きを目指す、あのトランプ前大統領が、民主・共和両党が合意していた600億ドル(約9兆円)のウクライナ支援を含む緊急予算案と不法移民対策をワンセットにした妥協案をご和算にしてしまったからである。
 弾薬をはじめ軍備と兵員の不足に直面しているウクライナは今月半ば、東部ドネツク州の要衝アウディーイウカからの撤退を余儀なくされただけでなく、今後もジリジリと後退を迫られかねない事態に陥っている。

 こうした中で、ここへ来て、ウクライナのゼレンスキー大統領が米国の軍事支援と並んで切望しているのが、ロシアの侵攻直後に西側が凍結したロシア中央銀行の在外資産を中心としたロシア政府の資産のウクライナへの引き渡しだ。
 西側が凍結した資産は、ドル換算で3000億ドル(45兆円)に達しているとされる。これは、これまでに主要7カ国(G7)など西側がウクライナに送った軍事、人道、財政などの援助額(26兆円)を上回る規模である。

 ウクライナへの引き渡しはともかく、凍結ロシア資産の活用そのものは、早くから西側で検討されてきた。
 しかし、これまでの報道によると、米国、英国、日本、カナダと欧州連合(EU)、ドイツ、フランスなどの間には、国際法に照らしてどこまで凍結ロシア資産をウクライナ支援にあてられるかで意見が割れているとされてきた。
 というのは、米国など4カ国が凍結したロシア資産を没収したうえでウクライナシ支援に充てることが可能だと解釈しているのに対し、EU側は没収はやりすぎで、支援に回せるのは凍結した資産から得られる金利・配当だけだと主張しているというのである。この点では、EU諸国の方が凍結した資産が米国など4カ国に比べて圧倒的に多く、仮に没収を強行すれば、ロシアから受けるであろう報復が深刻なものになるという懸念をEU側が抱えているという指摘もある。

 そこで、冒頭で紹介した今回のG7共同声明をみると、あの一文の前に「EUが制裁で凍結したロシア政府の資産から証券集中保管機関で得られる特別収入に関するEUの法的措置の導入を歓迎し、適用可能な契約義務に従い、適用可能な法律に準拠して、それらの使用を促進するさらなる措置を奨励する」という文言もあり、この点に着目すると、G7としてはEUの国際法の解釈を軸に、凍結ロシア資産を活用したウクライナ支援策を検討していくことで内々に合意した可能性もあるのかもしれない。
 だとすれば、支援の実現時期と並んで、利子・配当収入だけで十分な支援資金が得られるのかも気掛かりな材料になっている。

 いずれにせよ、ウクライナの状況に話を戻すと、ウクライナに、6月のG7サミットまで支援を待つ余裕があるとは考えにくい。
 ロシアのプーチン大統領に塩を贈る形にならないためには、サミットを待たずに、G7が合意形成を加速することや、米国がウクライナ支援の予算の承認を急ぐことが益々重要になっていることは間違いがなさそうだ。

2024年2月26日

COLUMN

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