町田徹 21世紀のエピグラム
NYCBが想起させた米地銀の脆弱性
去年の金融不安が再燃するリスクは?
米国東部のニューヨーク州を地盤とする銀行持ち株会社「ニューヨーク・コミュニティ・バンコープ(NYCB)」の株価が先月(1月)31日、業績悪化を理由に急落したことを受けて、米国の地銀株の株価が軒並み下落する騒ぎがあった。
NYCBは、昨年(2023年)破綻したシグネチャー・バンクの資産の一部を引き継いだ金融機関のひとつだ。それだけに、あの信用不安を想起させ易い銀行持ち株会社だったという。
実際のところ、米国では、連邦準備理事会(FRB)が急いだ引き締め策の効果が出て、商業用不動産市場が異変に見舞われている。
FRBの金融引き締めの終了も当初の期待より大きく遅れており、一部にはリスクの再燃を危ぶむ声が上がっているという。
NYCBは1月31日発表の2023年10〜12月期決算で、最終損益が1年前の1億7200万ドルの黒字から一転、2億5200万ドル(約370億円)の赤字に転落し、減配も打ち出した。
業績悪化の主因は、商業用不動産向けの融資を中心とした保有資産の急激な劣化である。不良債権の増加に備える貸倒引当金の繰入額が5億5200万ドルと、前年同期の4倍以上に拡大して収益の足を引っ張った。
こうした状況を嫌気、同行の株価は38%の急落となった。
そして、格付け機関のムーディーズ・インベスターズ・サービスは、NYCBとその傘下のフラッグスター・バンクの全ての長期および短期の信用格付けと評価について、投機的水準を意味するジャンク・ボンドに格下げするかどうかの検討に入ると発表した。
NYCBを巡る混乱は、米地銀全体の株安を招いた面もある。KBW地銀株指数が6%下落と、1日の下げ幅としては昨年3月13日にシグネチャー・バンクが破綻して以来の最大の下げを記録したのである。
勢い、米国市場の一部では、地銀全体の健全性を巡る懸念が再燃してきた。
FRBの急激な引き締め策を受けて、まずシリコンバレーバンクが破綻。シグネチャー・バンクに取り付け騒ぎが波及し、信用不安が広がった昨年の悪夢の再来を想起させたというのである。
もちろん、状況は去年とは大きく違う。米地銀の預金残高は安定しているし、根強いインフレで転換が当初の予想入りも遅れているとはいえ、FRBが引き締め政策を終了し、年内にも緩和に転じる確率は高いとみられている。
とはいえ、新型コロナウイルス感染症危機の最中にすっかりリモートワークが定着して空き室率の高止まりが続いていたところへ、FRBの旧ピッチな引き締めが続いたことに伴い、不良債権化する商業用不動産融資が急増していることは見逃せない新たなリスクだ。
これが米地銀全体の新たな大きなリスクにならないのか。
また、米地銀の債権や債権流動化商品を多く購入してきた日欧の金融機関経営に飛び火することはないのか。
米景気や米金融政策次第とはいえ、目の離せないリスクが浮上してきた格好になっている。
2024年2月5日