一般社団法人 グローカル政策研究所

町田徹 21世紀のエピグラム

洋上風力発電、入札制度の再見直しが必要だ!

 秋田県沖など3カ所を対象にした洋上風力発電所の開発権を巡る第2回入札の結果が今月半ば(12月13日)、明らかになった。
 経済産業、国土交通両省の発表によると、今回の特色は、3カ所のうち2カ所で1昨年暮れに結果が公表された初回と比べて落札価格が大きく低下したものの、その両方で複数の事業者の入札価格が横並びとなった。つまり、価格に強い下方硬直性が存在することが浮き彫りになったのである。
 すでに逮捕・起訴された秋本真利・衆議院議員の政治活動が端緒となり、見直された新制度の下で行われた第2回の入札だっただけに、再見直しは急務となっている。

 まず、今回の3カ所の落札結果を見ておこう。発表によると、秋田県(男鹿市、潟上市及び秋田市)沖は発電大手JERA、電源開発(Jパワー)、伊藤忠商事、東北電力などが参加する「男鹿・潟上・秋田Offshore Green Energyコンソーシアム」が、また新潟県(村上市及び胎内市)沖は三井物産、独RWE Offshore Wind、大阪瓦斯などが参加する「村上胎内洋上風力コンソーシアム」が、それぞれ「1kWhあたり3円」の札を入れたほか、後述の「事業実現性評価」でも高得点を獲得し、落札に成功した。
 一方、3カ所目の長崎県(西海市江島)沖は、住友商事と東京電力リニューアブルパワーが参加する「みらいえのしまコンソーシアム」が落札した。ただ、この地域は潮流や風況などの関係で発電所建設が難しいとされていることが響いたのだろう。落札価格は「1kWhあたり22.18円」と初回、2回目を通じて最も高い水準にとどまった。

 本稿で注目したいのは、この3カ所のうち、落札者が「1kWhあたり3円」という入れ札をした秋田県沖と新潟県沖である。この入札価格は、一昨年暮れに結果発表があった第1回入札において対象の3カ所を総取りしたことを理由に一部のライバル企業から名誉棄損紛いの批判を受けた三菱商事のコンソーシアムの落札価格の最安値(秋田県由利本荘市沖の1kWhあたり11.99円)と比べても、ほぼ4分の1という安値になっている。
 こうした入札価格の低廉化は、電気ユーザーで国際競争にさらされている企業や、生活費の高騰に悩まされている消費者から見て、おおいに歓迎すべきことである。第1回入札の結果を受けて、三菱商事はライバル事業者から激しい批判を浴びたものの、北海など海外の標準的な洋上風力発電と比べると「1kWhあたり4~8.5円程度高い」水準にまだとどまっていたことを勘案しても、大きな進展と言えるだろう。

 とはいえ、今回の入札結果には大変気掛かりな点もある。というのは、秋田県沖と新潟県沖の入札では、落札者と同じ「1kWhあたり3円」で入札した事業者が他にも複数社存在したからだ。つまり、入札価格は、判定の決め手にならなかったのだ。
 決め手になったのは、価格ではなく、前述の「事業実現性評価」と呼ばれる部分だった。これは、現地のボウリング調査や地元対策などの進捗状況などで構成される評価のポイントである。
 つまり、入札と言いながら、実態は価格競争の側面が乏しく、言質の開発にいち早く着手したところが勝機を得やすい、“早い者勝ち”的な評価の仕組みとなっていることが明らかになったのだ。

 こうした入札結果になった背景は、はっきりしている。今回、入札が集中した「1kWhあたり3円」が、いわゆる基準価格(業界用語では、ゼロ・プレミアム)になっていたからだ。この場合、「1kWhあたり1円」「1kWhあたり2円」など「1kWhあたり3円」より安い価格で入札しても、「1kWhあたり3円」と同じ評価点しか得られない仕組みになっている。
 それゆえ、第2回入札で行われた入札制度は、応札者が基準価格を下回る価格で応札する動機が生じないものとなっており、基準価格を下限とする極めて価格の下方硬直性が強い仕組みだった。
 ここで、懸念すべきは、将来、市場価格が大きく下がる可能性があることだろう。つまり、現時点の基準価格が、長期にわたる事業期間(30年程度)を通じて下限でよい保証はないのである。
 こう考えれば、本来ならば、将来の価格低下を勘案してより低価格で行う可能性のある入札行動を恣意的に左右しかねず、下方硬直性の強い現行制度は欠陥制度と言わざるを得ない。
 経済産業、国土交通両省は今一度、制度見直しを進めた審議会でも根強い反対があったことを想起すべきだろう。今回、明らかになった問題は、最初から予見されたことでもある。

 また、今年9月、元外務政務官で、現役の衆議院議員(自民党、千葉選出)だった秋本真利議員が収賄罪で、再エネベンチャーの日本風力開発(東京・千代田)の塚脇正幸前社長が贈賄罪でそれぞれ、逮捕・起訴されていることも、現行の入札制度に影を落とす問題だ。
 秋本議員が国会質問や自民党内での政治活動などを通じて、政府に洋上風力発電の開発権を巡る入札制度の見直しを迫り、当時の経済産業大臣から言質を引き出したことなどは周知だからである。

 一方、気候変動対策は待ったなしだ。国連環境計画(UNEP)が今年11月公表の報告書で明らかにしたように、各国が現在、表明している2030年頃までの温暖化ガスの削減目標がすべて達成されたとしても、地球の気温は産業革命前に比べて2.5〜2.9度上がる。現状では、地球の平均気温の上昇を1.5度に抑えるというパリ協定の目標の達成に遠く及ばないというのである。
 そうした中で、日本がこれまで以上に再エネの普及を加速するためには、より健全な洋上風力発電の開発権を巡る入札制度の構築を目指す再見直しが待ったなしとなっている。

 再見直しにあたっては、今回、欠陥が明らかになった実体的な価格評価のウェートの低さを見直して、価格メカニズムを最大限に活用する仕組みに改めることが最も重要なポイントだ。
 あわせて、洋上風力発電と言っても、発電所である以上、地元にとって迷惑施設の側面があることは否定できない。そうした中で、現行の入札制度は、ボウリング調査や地元対策を事業者に丸投げにすることを前提にして、その進捗状況を入札の「事業実現性評価」と称して採点する仕組みを採っている。
 しかし、カーボンニュートラルのための国策として、洋上風力発電のふかぼりが不可欠なのだから、こういった手続きを国が代行する「セントラル方式」に改めることも重要だ。そうして事業者の負担を軽減したうえで、入札は価格メカニズムの活用に軸足を置くのが筋ではないだろうか。

2023年12月25日

COLUMN

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