一般社団法人 グローカル政策研究所

町田徹 21世紀のエピグラム

バラ色の目標ばかりが目立つCOP28
肝心なのは具体的な実現策では。

 年末を控えた、この時期の開催が恒例となっている「国連気候変動枠組み条約」締約国(COP)の会議が今年も前月(11月)30日、アラブ首長国連合(UAE)のドバイで開幕した。今回は1995年にドイツで開催した第1回会合から数えて、28回目となることから、「COP28」と呼ばれている。
そうした中で、前半のハイライトとなる「首脳会合」にはおよそ140ヵ国が参加。「2030年までに世界全体の再生可能エネルギーの発電容量を3倍に引き上げて、エネルギー効率を2倍にする」ことに110カ国以上が誓約して、今月(12月)2日に閉幕したと、早くも大きな成果があったかのように大きく報じられている。
 こうした誓約は、バラ色の目標だが、実現性が乏しいリスクが小さくない。というのは、毎年ありがちなことだが、具体策や罰則が盛り込まれておらず、締約国への強制力が乏しいからである。

 実は、地球温暖化は、実態として、これまでの予想を大きく上回る速度で悪化している。
 COPが至上課題としてきた「パリ協定」は、産業革命前と比べた世界の平均気温の上昇を「2度より低く、1.5度以下」を目指すとしてきた。
 ところが、国連環境計画(UNEP)は11月20日、COPの議論に役立てる狙いで、報告書「Nations must go further than current Paris pledges or face global warming of 2.5-2.9°C 」を公表。その中で、タイトルで謳った通り、各国が現在、表明している2030年頃までの温暖化ガスの削減目標をすべて達成したとしても、地球の気温は2.5〜2.9度上がるとの見通しを示して警鐘を鳴らしたのである。
 事態は益々深刻になり、切迫しているというワケだ。

 こうした報告書を真摯に受け止めれば、COP28は大胆に議題をさしかえて、各国別の温暖化ガス削減目標の引き上げを前面に掲げる必要があった。真正面から、各国に具体策の表明を求めるだけでなく、達成できない国が出ることを念頭に、罰則規定作りにも着手することも重要だったはずである。
 実際のところ、国連のグテーレス事務総長は首脳級会合の初日(12月1日)に演説、各国の温暖化対策について、削減目標の引き上げを求めるとともに、「今行動すれば、最悪の混沌(こんとん)を回避する技術はある。リーダーシップと協力、政治的意思が今、必要だ」などと強い危機感を表明した。
 ところが、これまでの現地からの報道を見る限り、議長国からそうした表明があったとは伝えられておらず、今月の会期終了の予定日(12月12日)までに、これまでより踏み込んだ成果を出せるとの見通しは乏しい模様だ。

 むしろ、議長国に対しては、COP28が初めての産油国での開催で、産油国が議長国をつとめるという事情もあって、いつも以上に開催前からの期待値が低かったことが気掛かりだ。
 開会前の議長国としての発信を見る限り、合意内容がこれまでより後退はしないのでは、といった程度の期待しかなかったのだ。
 こうしたことが影響しているのか、ここまで議長国の対応に対する参加国からの批判が少ないことも、参加者たちの危機感の醸成の妨げになっているのかもしれない。
 COP28の最終合意としては、温暖化ガスを減らす対策をしていない石炭火力発電などを段階的に減らすという昨年の合意を踏襲するとの見方が有力なのが実情と報じられている。

 加えて、問題なのは、冒頭で記したような、再生可能エネルギーの導入量を3倍に増やし、エネルギー効率を2倍に改善するといった目標の実態だ。
 日本政府は早くも「世界で3倍に増やすということであり、各国に3倍を求めているわけではない」と逃げ腰だ。そもそも、国内にそんなスペースはないとの主張も漏れている。
 繰り返すが、罰則規定もないとあって、安穏と構えているとしか考えようがない。日本と似たような考えの安易な国は、枚挙に暇がないはずである。

 これまで以上に高まっている地球温暖化リスクに対して、今年のCOP28が適切に対応ができるのか。早くも暗雲が漂う格好になっている。

2023年12月4日

COLUMN

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