一般社団法人 グローカル政策研究所

町田徹 21世紀のエピグラム

一段の混迷が必至なのか? NTT法見直し問題

 NTT法見直し問題が大きな分岐点を迎えている。
 今月(11月)末までに自民党案を取りまとめるとしてきたにもかかわらず、自民党内が真っ二つに割れており、同党の見直し案の集約ができるかどうか予断を許さない状況になっているのだ。
 このまま、自民党案がまとまらないようだと、議論が空中分解するリスクもあり、懸念せざるを得ない状況だ。

 まずは、議論の経緯を振り返っておこう。
 今回のNTT法見直し問題は、自民党の萩生田光一政調会長が6月初旬に、政府が財務大臣名で、発行済み株式の3分の1を保有する根拠となっているNTT法について言及、「そろそろ見直しをする時期ではないか」との見解を示したことがきっかけだった。
 その心は、NTT株の売却益を、倍増のために新たな財源の確保が急務となっていた防衛費に充てようという考えにあった。
 このため、羽生田氏は、岸田文雄総理に、NTTの完全民営化を含めて、自民党の防衛関係費の財源検討に関する特命委員会(PT)で検討することを打診し、その了解を得た。
 8月になると、PTの座長に、党幹事長や経済産業大臣をつとめた経験のある、大物商工族議員の甘利明・衆議院議員があたることになった。PTは、関係各方面からヒアリングを積極的に行い、議論は着々と進んだ。その中で、NTT株売却には慎重な意見が出る中で、甘利氏がNTT法には時代遅れの規制が多く、改正では不十分で廃止が相応しいとみているようだとの見方も広がっていった。

 筆者が取材する限り、この羽生田発言で突然降って湧いたNTT法見直し問題は、NTT経営陣にとっても、総務省にとっても「寝耳に水の話」だった。
 ただ、総務省OBの中には、同省所管のNTTの経営問題を、総務省とは縁の薄い羽生田氏や甘利氏が中心になって議論を始めたことへの強い反発があり、現役官僚に主導権の取戻しを迫った向きもあったようだ。
 このため、同省は、後追い的に、同省の審議会「情報通信審議会」でもこの問題を扱うことを決め、来年(2024年)6月までに答申をまとめる方針を打ち出した。11月中にもまとまる自民党の提言を見てから、じっくり巻き返すという対応を打ち出したのだ。

 そして、PTは今年11月半ばまでに、その原案をまとめた。新聞やテレビの報道によると、その柱は、政府保有NTT株の売却益を防衛財源に充てることを断念する一方で、NTT法を段階的に撤廃するというものだった。
 だが、このPT原案の集約の前後から、横やりが入り、この原案を自民党の提言にすることが議論として紛糾、一とん挫した形になっている。
 11月16日のPTとの合同会議で、横やりをいれたのは、旧郵政大臣や総務大臣らが多く参加する自民党の情報通信戦略調査会(野田聖子会長)のメンバーたちだ。
 横やりを入れた理由としては、表向き、NTTに課している固定電話サービスを全国で広くあまねく提供する義務(ユニバーサルサービス義務)を近代化しつつ、存続させる必要があり、NTT法の廃止はそぐわないなど、政策的な必要性を掲げている。
 だが、本音では、NTTやNTT法の問題について、専門家であると自負している情報通信戦略調査会の面々を無視して、羽生田氏や甘利氏と言った商工族議員が議論を主導したことへの反発が透けている。縄張りを侵されたという意識なのである。
 こうした点は、今回、早くからNTT法廃止論を発信していた甘利氏に対する総務官僚の反発と通じるところがある。

 総務省(旧郵政省)はかつて、5年毎に、NTTの経営見直し論を闘わせて来た歴史がある。
 その際、ほぼ一貫して自民党を味方につけていたのはNTTで、旧郵政省はその度に、NTTと水面下で協議する一方、時間をかけて、自民党に根回しして落としどころを探るという対応を採ってきた。
 今回のように、早い段階で、自民党内が真っ二つに割れるというのは異例のことで、今後の議論が過去のケース以上に混乱しかねない状況になっている。11月末まで、あと数日で、自民党案がまとまるかどうかは大きな分岐点だ。

 しかし、そうした政治的な状況はさておき、筆者が気掛かりなのは、現行のNTT法が取締役・監査役候補の決定や毎年の事業計画を総務省の認可マターとしていたり、外国人取締役の登用を禁じたりしたりしている点だ。これはかつて“護送船団方式”などと呼ばれ、「箸の上げ下げまで口を出す」と言われた金融行政と同じか、それを上回る介入が横行している。問題なのは、あまりにも時代遅れなこれらのNTT法の規定の見直しがどうなるかなのである。
 また、外資全体での3分の1を超すNTT株の保有を禁じるNTT法の規定は、経済安全保障の観点から見れば、脆弱だ。
 他のインフラ企業も同様の問題を抱えているが、米国のCFIUS(対米外国投資委員会)制度を参考にして、事後であっても、経済安全保障を脅かす外資のM&A(企業の合併・買収)を白紙に戻させるような仕組みが日本でも必要な時代になっていることは明らかだろう。
 こういう議論をすると、「モノ言う株主が1%保有すれば、内資でも厄介だ。外資ばかり気にしても仕方ない」という人がいるかもしれないが、そちらは経営の問題であり、経済安全保障の問題とは分けて考えるべき問題のはずである。
 いずれにしても、自民党の政治家や総務官僚には、つまらない縄張り意識を捨てて、時代遅れの規制の見直しと経済安全保障の確立の観点からNTT法見直し問題を熟考してほしいものである。

2023年11月27日

COLUMN

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