一般社団法人 グローカル政策研究所

町田徹 21世紀のエピグラム

岸田総理の経済対策が抱えるリスクとは?

 様々な批判が渦巻く中で、岸田文雄総理は先週木曜日(11月2日)の臨時閣議で、物価高対策や減税を含む17兆円規模の総合経済対策を決定した。これに伴う補正予算案は一般会計で13.1兆円になるという。
 しかし、日本経済は、そのコロナ危機からの回復期にあり、50兆円と言われた需給ギャップのマイナスは解消した。
 つまり、今は総合経済対策を必要とせず、危機下に膨らんだ財政赤字の健全化に努めて次の経済危機に備える時期である。
 この規模の財政支出となると、コロナ期の行き過ぎた大盤振る舞いが災いして経済が過熱して金利が急騰した米国の二の舞になりかねない。

 安倍、菅、岸田の歴代3政権は、新型コロナウイルス感染症危機に見舞われた2020年度に3回合計で73兆円の補正予算を組んだのに手始めに、2021年度は1回で36兆円、2022年度は2回で31兆円と巨額の補正予算を組んで大型総合経済対策を繰り返してきた。
 だが、2020年3月以前に、経済対策に伴う補正予算の規模が10兆円を超えたのは、リーマン・ショックの影響が広がっていた2009年4月の15.4兆円と、東日本大震災からの復興が急務となっていた2013年1月の13.1兆円のわずか2回しかない。その他は、多いケースでさえ7兆円台にとどまっていた。こうした前例を踏まえれば、今回の総合経済対策の規模が巨大なことは明らかだろう。

 こうした巨額の総合経済対策が必要な理由として、岸田総理は、閣議決定した総合経済対策を「デフレ完全脱却のための総合経済対策」と名付け、所得税・住民税の減税によって賃上げの流れを確実なものにすると取ってつけたかのような説明をしている。
 だが、賃上げの主体はあくまでも民間企業だ。1度きりの所得税・地方税減税よりも、総理が「2030年代半ば」と実現を10年以上も先送りした最低賃金の時給1500円(全国平均)への引き上げ目標をもっと前倒する方が、低所得者の継続的で確実な支援になることは明らかで、制作としても真っ当だろう。

 そもそも所得税は、岸田内閣が、緊張を増す東アジア地域の安全保障への対応策として防衛費を増額するための財源のひとつに位置づけ、早ければ2024年度にも増税すると決めた税目である。遠からず増税が決まっているのに、その税目を増税前に減税するなどというのは、政策として支離滅裂だ。

 今後、総合経済対策の裏付けとなる補正予算案を審議することになる国会の役割は重要だ。
 減税問題だけでなく、石油元売り会社への補助金と化しているガソリン高対策などが無駄だという議論も幅広く知られている。与党・自民党にも、総理の総合経済対策への批判が強いと聞く。野党と協力して、建設的な補正予算の審議をしてほしい。
 さらに言えば、物価の急騰やその原因となる円安をマイナス金利政策によって醸成している日銀の金融政策を正常化することも、また重要なはずである。
 財政・金融両面での政策の正常化の遅れは、日本経済への信認や成長力を損ねる結果に繋がりかねない。

2023年11月6日

COLUMN

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