一般社団法人 グローカル政策研究所

町田徹 21世紀のエピグラム

贈収賄だけじゃない。
日風開と秋本議員が犯した本当の罪とは!?

 洋上風力発電の開発地域を巡る入札ルールが第2ラウンドの手続き開始後に異例の変更をされた問題などに関連して、東京地検特捜部は今月はじめ(8月4日)に、外務政務官で、千葉選出の自民党・衆議院議員である秋本真利氏の事務所や自宅の強制捜査に踏み切った。
 強制捜査を受けて、秋本議員は即日、外務政務官を辞任。翌日には、自民党を離党した。
 この疑惑の核心とされているのは、秋田県沖の2カ所と千葉県沖の合計3カ所の開発権を対象にした第1ラウンドの入札で、三菱商事が3カ所を総取りしたことを受け、当時、すでに別の場所を対象にした第2ラウンドの入札が公示されていたにもかかわらず、秋本議員が国会での質疑などを通じて入札ルール見直しを迫り、第2ラウンドから価格競争を働きにくくしたという問題だ。この変更の裏には、国のルールを歪めてもらうために、賄賂を贈る贈収賄の犯罪、汚職事件があったのではないかというのである。筆者が取材したところ、早ければ、秋本議員は秋の臨時国会召集前の今月末にも正式に逮捕される可能性が高いという。
 当然ながら、贈収賄で賄賂を受け取ったり、受け取る約束をしたりすることは犯罪であり、贈る側も受け取る側も刑法による処分の対象だ。言語道断である。
 しかし、もう一つ許しがたい日本全体への背信行為も含まれている。というのは、彼らの行為は、電気の供給価格の安さが決め手にならない形に入札ルールを変更させることによって、自分たちがビジネス機会を得ようとする一方で、企業の経営コストを押し上げて国際競争力を損ねたり、家計に重い負担を強いて生活を圧迫したりしかねないといった弊害だらけの行為だったからである。国民経済的にみて明らかにあってはならない、不条理な行為に手を染めたと断じざるを得ない。

 順を追って説明しよう。
 まず洋上風力発電だが、その名の通り、海上に大型風車を設置して行う発電をいう。日本は国土が狭い島国で、陸上は風力発電に適した土地が限られる半面、領海は広く、海上には強い風が吹く地域も多い。
 ところが、過去20年あまり、大手電力会社が既存の原子力や火力の発電所の活用に拘泥する一方で、風力発電所が建設しやすい地域への送電網の整備を新たなコスト負担だと嫌ってきたことなどが響き、洋上風力発電の普及で大きな遅れをとった。対照的に、北海などヨーロッパ北部では早くから開発・普及が進み、劇的な発電コストの引き下げ競争が進んだし、中国もこうした動向に着目、近年では沿岸部の開発が猛烈な勢いで行っていた。

 そこで、日本政府はこの遅れを取り返そうと目論み、2018年に「省エネ海域利用法」を経済産業省と国土交通省が所管で制定した。
 疑惑の焦点の入札は、この法律の「促進区域」で発電を行う開発業者の地位を巡るものだ。
 一般に、発電所はどんな燃料を使おうと迷惑施設であり、その建設には環境アセスメントで複雑かつ時間のかかる手続きが求められる。が、カーボンニュートラル(脱炭素)が世界共通の課題で再エネの普及が急務となっていることから、この法律の促進地域の事業に限っては、国が手続きを代行するなどの形で迅速な事業開始を後押しすることにしたのである。

 そして、注目の第1ラウンドの入札結果が2021年暮れに明らかになった際、参入を目論んでいた大手電力会社や総合商社、エネルギー企業、再エネベンチャーなどの間で衝撃が走った。
 というのは、この業界ではそれまで伏兵と見られていた三菱商事が率いる企業連合が3地域すべてで2番札に1kWhあたり5円以上の大差をつける発電価格の低さや「地域貢献」での評価の高さを武器に3カ所すべてを総取りしたからだ。特に、発電価格の安さは、長年、固定価格買取制度(FIT)による“政府支援漬け”に慣れ切った再エネベンチャーにはとても対抗できない水準だった。
 ただ、筆者から見れば、あの落札価格はまだ高く、もっと競争してほしい水準だ。なぜならば、当時の北欧など海外の標準的な価格に比べて1kWhあたり4~8.5円程度高かったからである。なので、筆者は、「カーボンニュートラル時代の国際競争力を支える発電価格として考えれば、まだまだコスト削減努力を期待したい水準だ」と解説したものだった。

 一方、日本風力開発や秋本議員はこの入札を契機に価格競争を排除しようとルールの見直しを主張し始めた。これが今回の騒ぎの核心だ。
 報道によると、日本風力開発は、秋本議員に2019年以降、少なくとも6000万円の資金を提供したとされる。当局から任意で、塚脇正幸(つかわき・まさゆき)社長が事情聴取を受けたと報じられているのだ。当初、塚脇社長は弁護人を通じ、資金提供について、塚脇社長と秋本氏が所属する馬主組合にしたものであり、秋本議員個人への賄賂ではないと反論した。が、その後、前言を翻し、賄賂としての提供だったと認める考えに変わったとされている。
 ちなみに、国会の議事録によると、秋本議員は去年2月17日の衆議院予算委員会第七分科会で、当時の荻生田光一・経済産業大臣に「今公示している二回目の公募から評価の仕方というのをちょっと見直していただきたい」「(落札した企業の洋上風力発電所の)運転開始時期が見えない」などと迫った。まるで出来レースのようだが、この質問に、萩生田大臣が「運転開始時期を明確にルールを決めて競争していただいた方が、それは評価もしやすくなると私も思います」と応じ、価格がほとんど決め手にならない形への入札ルールの見直しの実現に繋った。
 当時は、秋本議員に資金提供をした日本風力開発のほか、再エネ大手のレノバといった企業が、政治家や官僚の間を陳情に奔走したり、政府の審議会で自社の主張を展開したり、関係の深い学者を動員してルール見直しを迫ったりしていたことは広く知られている。そして、自民党内の議員連盟などの会合で、秋本議員やその同僚議員、そして閣僚経験者らが騒いだことがルール見直し論を勢い付かせたのだ。

 最後に見直しにお墨付きを与えたのは、経済産業省と国土交通省の審議会の下部組織の合同会議だ。この会議では、委員の一部から最後まで様々な反対意見が出た。しかし、両省の意向を受けた座長らが押し切っており、その後の両省によるパブリックコメントの募集も含めて、結論ありきの茶番劇の感が強かった。

 この後出しじゃんけんのような第2ランドからの入札ルールの見直しの結果、せっかく始まりかけた日本の洋上風力発電の価格競争は大きく阻害されかねない状況に陥った。
 すでに第2ラウンドの札入れは完了しており、結果の公表は今年の年末になる見通しだ。注目の日本風力開発やレノバといった再エネ大手は、この次の第3ラウンドに入札に参加するとみられている。今回のような騒ぎが起きた以上、日本風力開発に対して入札への参加資格を停止するだけでなく、入札ルールをもとに戻すなどルールそのものの再見直しも必要だと筆者は感じざるを得ない。

 さらに、秋本議員への資金提供額がすでに報じられている6000万円だけなのか。日本風力開発以外には、資金提供者はいないのかが大きな焦点のひとつだ。秋本議員については、立憲民主党の源馬議員が今年2月の衆議院予算委員会で、レノバ株の売買をしている事実を突き付けて詳細の説明を求めたものの、同議員は明確な回答を拒んだ経緯がある。それゆえ、なぜ、レノバ株に投資したのかの追及も欠かせない。
 また、秋本議員と同様に、自民党の党内世論作りに動いた議員や閣僚、総理経験者に賄賂性のある資金提供を受けた者はいないのかも見逃せない。
 本来ならば、秋本議員や当時の萩生田経産大臣が一致して、一部業者の利害に固執、価格競争をないがしろにして、国民負担をいたずらに増大させた問題こそ、もっと追及してほしいところなのだ。なぜなら、企業や国民が負担させられる金額が、天文学的なものになりかねないからである。

2023年8月18日

COLUMN

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