一般社団法人 グローカル政策研究所

町田徹 21世紀のエピグラム

金融政策の違いから再び円安が進み、
今週にも為替介入との観測が強まる!

 外国為替市場で先週末(6月30日)、7か月ぶりに1ドル=145円台の円安を付ける場面があった。
 背景には、欧州中央銀行(ECB)が週央までポルトガルのシントラで開催した国際金融会議「ECBフォーラム」で、日米欧の金融政策の方向性の違いが改めて浮き彫りになったことがある。
 この水準は、昨年、政府が24年ぶりの「円買いドル売り」介入を実施したのと近似だ。
 市場の一部では、鈴木財務大臣らが口先介入を繰り返していることもあり、円安がこれ以上進めば、今週中にも同様の介入が行われるとの警戒感が台頭しているという。

 6月26日から3日間の日程で開催された「ECBフォーラム」では、ECBのラガルド総裁が「見通しに重大な変化がなければ7月も利上げを続ける」と明言、インフレを抑制するため、金融引き締めを継続する姿勢を強調した。あわせて、「中央銀行が近い将来、政策金利がピークに達した、と完全に自信を持って言えるようになる可能性は低い」とも付言した。
 また、米連邦準備理事会(FRB)は6月に11会合ぶりに政策金利を据え置いたものの、かねて年内にあと2回の利上げを実施することを示唆している。そして、パウエル議長はECBフォーラムに出席し、そうしたスタンスに変わりがないことを明確にしたうえで、今月開催の連邦公開市場委員会(FOMC)でも追加利上げを実施する可能性を否定しなかった。
 これら2人と対照的だったのが、日銀の植田和男総裁だ。2024年も物価高が続くことを「確信」した場合、金融政策の正常化を進める可能性があると目先を変える発言はしたものの、基本的なトーンは変えなかった。これまでのところ、物価の伸びは政府・日銀が目標とする2%を下回っているとし、大規模緩和を継続することが妥当だと訴えたのである。

 こうして日米欧の金融政策の違いが改めて鮮明になった結果、先週後半にかけて、外為市場では円安基調が加速した。
 30日には一時、1ドル=145円台まで下落したのだった。
 ちなみに、政府・日銀は昨年、覆面介入も含め、9月22日、10月21日、同24日の3回にわたって市場介入を実施したとされているが、このうち最初の9月22日の介入の価格は、1ドル=145円台後半まで円安が進んだところだったので、ここへきて一時とはいえ145円台まで円安が進んだことによって再び介入が繰り返されるのではないかとの観測が強まっているのである。

 実際のところ、鈴木俊一財務大臣は6月30日の閣議後の記者会見で、口先介入を行った。具体的には、記者の質問に答える形で、「政府としては非常に高い緊張感を持って市場の動きを注視している」「急速で一方的な動きもみられる。行きすぎた動きがあれば適切に対応する」「為替相場はファンダメンタルズを反映して安定的に推移することが重要だ」と強調したのである。こうした口先介入を目の当たりにして、政府・日銀が昨年秋に続く円買い・ドル売りの為替介入に踏み切るのではないかとの見方が強まっているというわけだ。

 ただ、昨年は8カ月程度の間に、1米ドルに対して40円以上も円が下落した。これに比べて、今回は5カ月程度の間に15円ほどしか値下がりしていない。また、足もとでは、去年と違い、資源や穀物の国際相場が落ち着いており、円安以外に輸入物価を強く押し上げるような圧力も乏しいことから、早期の為替介入には懐疑的な向きも少なからず残っているようである。

2023年7月3日

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