一般社団法人 グローカル政策研究所

町田徹 21世紀のエピグラム

将来推計人口
まさかの上方修正のカラクリと危うさとは。

 耳を疑った人も多かったのではないだろうか―。
厚生労働省所管の国立社会保障・人口問題研究所が4月26日に公表した「将来推計人口」が前回(2017年公表)との比較で、1億人割れの時期を3年遅い2056年のことと推計して見せたのだ。今回も全体として長期的で深刻な人口減少が続くという大勢に変わりはないが、人口の減少ペースが鈍くなるという点で上方修正になっているのである。今回は、この背景のカラクリを考えてみたい。

 周知の通り、将来推計人口は、5年に1度行われる国勢調査をベースに、推計は最も現実的で、実現性が高いという位置づけの「中位推計」のほか、楽観的な「高位推計」と悲観的な「低位推計」の3つケースを公表することが慣例になっている。
 ここで取り上げる今回の中位推計は、①前回の予測より3年遅い2056年に総人口が1億人を下回る、②2059年には日本人の出生数が50万人以下に低下する、③2070年の総人口は現在より3割少ない8700万人になる、④人口構成も変化し、2070年には65歳以上の比率がおよそ4割に拡大する、⑤同じく2070年には全体に占める外国人の比率がおよそ1割に膨らむ――などとしたのが特色だ。

 では、①にある、人口1億人割れの時期はなぜ、3年遅れになったのだろうか。
 実は、将来推計人口は、人口変動の3大要素とされる「出生」「死亡」「国際人口移動」について一定の前提をもうけて数理モデルに投入、将来の人口の規模と構造変化を推し計る仕組みになっている。
 そして、今回の前提は「出生率」が今年過去最低の1.22台に低下した後、2070年にかけてほぼ一貫して上昇するとか、前回に比べて「平均寿命」が男性で0.94年、女性で0.59年伸びるとかいった上方修正要因があった。
 中でも突出しているのが国際人口移動で、年間の外国人の入国超過数を前回の6万9275 人から16万3791 人と2.4倍に急増させた点である。つまり、外国人の入国増加が上方修正の主因、カラクリというわけだ。

 しかし、この外国人の入国超が拡大するという傾向が将来推計人口の想定通り長期的に続くかどうかは大いに疑問である。というのは、今回は2016~19年の比較的流入が多かった時期を前提に用いたからだ。加えて、日本に来る外国人労働者の母国である中国やタイ、ベトナムなどのアジア諸国の急成長に伴う現地の賃金水準の目覚ましい上昇と、昨年来の円安に伴う現地通貨換算した場合の日本で稼いだ賃金の目減りが勘案されない仕組みになっている点も懸念せざるを得ない。
 言い換えれば、昨年来、部長になればタイの方が日本より賃金が高いなどと指摘され、日本の経済界が昨年まで長年、実質賃金の低下を放置してきた問題が一顧だにされていないのである。今年1年ぐらい大盤振る舞いしたぐらいで、この問題は容易に解消しないだろう。

 また、政府・与党は今年6月中の閣議決定を目指して、熟練外国人が日本で長く働ける在留資格「特定技能2号」の対象業種を現在の3業種(建設、造船・船用工業、介護)から、宿泊、航空、飲食料製造業、農業、漁業など10業種以上に拡大する調整を進めていると報じられているものの、連立与党内にはナショナリスト的な勢力が強く、この拡大策すら実現が危ぶまれているのが実情とされている。

 もちろん、こうした在留資格の見直しは急務だ。が、それだけでは、あまりにも不十分だ。外国人にとって魅力的で暮らしやすい社会に日本を作り替えていく必要がある。そのためには、外国人労働者の賃金を日本人と同一にするだけでなく、双方の賃金水準そのものをもっと上げる努力や、就労条件の改革、そして帯同する家族を含めた生活環境の整備などが欠かせない。
 テレビでは識者と称するコメンテイターが「これは移民では」などと懸念のコメントをする場面をみかけるが、そもそも海外では外国人労働者と移民を区別する国はほとんどない。その意味では、堂々と、政府が「本格的な移民の受け入れ開始・拡大を行う」と宣言するぐらいの覚悟が求められているのではないだろうか。

2023年5月1日

COLUMN

町田徹 21世紀のエピグラム 一覧