一般社団法人 グローカル政策研究所

町田徹 21世紀のエピグラム

収まらない値上げラッシュ。
政府が・日銀が打つべき対策とは?

 新年度入りする4月も値上げラッシュが続きそうだ。民間の信用調査機関である帝国データバンクが2月末に公表した調査によると、4月の食品や飲料の値上げは4892品目と、3月の3442品目を上回る勢いという。
 また、2月の消費者物価指数をみると、生鮮食品を除く総合指数が103.6と前月比で0.7%の下落となり、1年1か月ぶりの上昇率の鈍化を記録したものの、実態は政府が電気代の負担軽減策を採っていることが大きく、インフレの勢いが一向に衰えていないことを裏付けたとされている。
 こうした中で、政府・日銀は適切と言える対応策を講じているのだろうか。

 まず、4月の値上げラッシュだが、帝国データバンクは、国内の食品や飲料のメーカー195社を対象に調査した。品目別では、ウインナー製品、牛乳、バター、ヨーグルト製品などの値上げが相次ぐ見通しとのことだ。
 今年1年間を通じて見ても、すでに値上げされたり、これから値上げが予定されたりしている食品や飲料は、累計で1万5813品目に達する。これは去年を上回るペースで、値上げラッシュが加速していることを示しているという。値上げ率は平均で16%。引き続き、穀物などの原材料価格とエネルギー価格の高止まりが値上げの主たる原因だ。
 ちなみに、今年値上げされる品目では、①冷凍食品などの「加工食品」が8022品目、②「調味料」が3100品目、③「酒類・飲料」が2497品目、④「菓子」が1172品目、――などが上位を占めている。
 値上げを複数回に分けて実施するところが多いのも特色だ。これは1回では値上げ幅が大きくなり過ぎるためで、複数回に分けて値上げを行うケースが増えているというのだ。

 一方で、総務省が取りまとめている2月の消費者物価指数もこうした値上げ圧力の強さを裏付けている。
 まず、2020年平均を100する、生鮮食品を除いた指数は今年2月、去年2月の100.5から103.6に上昇し、上昇率が3.1%となった。この上昇率は、前月(1月、4.2%)と比べると、1.1ポイントの低下であり、去年1月以来1年1か月ぶりの上昇率の鈍化だった。簡単に言えば、インフレの収束を期待したくなる動きを見せたのである。
 ところが、総務省は、政府による負担軽減策によってエネルギー価格の上昇が抑えられたことが生鮮食品を除いた指数の上昇を抑えた主たる要因であり、インフレ圧力はまだ強いと分析している。具体的には「電気代」がマイナス5.5%と1年7か月ぶりにマイナスに転じたことや、「都市ガス代」の上昇率が16.6%と1月に比べて半分程度に縮小したことが大きかったというのである。これらの政府支援がなければ、生鮮食品を除いた指数の2月の上昇率は1月と同じ4.2%程度の水準に高止まりしていたはずだとしている。
 半面で、「食用油」(上昇率27.6%)、「外食ハンバーガー」(同24.6%)、「卵」(同19.9%)などを中心に、引き続き、食料品は値上げが相次いでいる。加えて、「電気冷蔵庫」(同26.1%)、「ベッド」(同11.1%)など家電や家具の価格上昇も目立ってきた。

 こうした中で、政府は3月22日に、エネルギー価格の高騰などを受けた追加の物価高対策を決定した。が、こうした支援の在り方は改めて問われる可能性が決して小さくないだろう。
 というのは、本来ならば物価が上がれば、利用者が購入を抑えることによって需要が落ち着き、価格が下がるのが市場のメカニズムだからだ。ところが、政府の支援策には、この市場メカニズムを機能停止に追い込みかねない危うさがある。
 ここで、特に問題なのは、22日に決定した対策が、低所得世帯向けの給付金だけでなく、LPガスや大規模工場向け電力の負担軽減も柱に据えていることだろう。
 本当に困窮している世帯への支援は不可欠だ。が、今回の給付金は、全世帯の2割に相当する約1200万世帯の住民税非課税世帯が対象とされている点が見逃せない。仮に収入が同じでも、年金受給者は控除が大きく、現役世代よりも高齢者が支援の対象になりやすいのだ。それゆえ、不動産や金融資産などを持ち、生活に困っていなくても、高齢者ならば給付の対象になる可能性が高いというのである。
 また、電力料金の高騰対策の対象を広げたことで、経営が堅調な大企業が含まれて来ることも、大盤振る舞いが過ぎるとの批判が起きないのが不思議な政策対応だ。

 インフレ対策は、本来、日銀の金融政策で利上げなどの引き締めによって対応すべきことである。
 ただでさえ、日銀の長引き過ぎた大規模緩和策には財政ファイナンスの効果があるとされているのに、安易に予算の予備費を投入して今回の物価高対策のような放漫財政を繰り返していては、金融政策の正常化を一段と困難にする事態を招くことにもなりかねない。

2023年3月27日

COLUMN

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