一般社団法人 グローカル政策研究所

町田徹 21世紀のエピグラム

いよいよ終焉が近付く大規模緩和
4月以降の見直しペースは緩やかか。

 2期、10年にわたった日銀の黒田東彦総裁の任期が終わりに近づいてきた。これに伴い、10年前、アベノミクスの「3本の矢」のひとつとしてスタートした大規模金融緩和は、名実ともに歴史的な役割を終えることになりそうだ。
 背後にあるのは、黒田氏の総裁3期目入りの可能性が消滅したことだ。
 岸田総理が1月22日の民放のテレビ番組に出演し、4月8日に任期を迎える黒田総裁の後任について言及、「まず人は変わる」と発言。黒田総裁を再任せず、他の人に交代させる考えを明確にしたことから、情勢が確定した格好なのである。同総理は、後任の候補案を来月、国会に提示する意向も明らかにした。

 周知の通り、黒田日銀は1月17日、18日に開催した金融政策決定会合で、市場の観測を無視して大規模な金融緩和策の縮小を見送った。
 その姿勢は頑なで、昨年12月に打ち出した長期金利の許容上限を「ゼロ・プラス・マイナス0.5%程度」のまま維持したばかりか、本来、金融機関に対して国債を担保に低金利資金を貸し付ける制度である「共通担保資金供給オペ」を拡充することによって、日銀に代わる買い手として金融機関に国債の購入を促す奇策も打ち出してみせた。
 そのうえで、黒田総裁は18日の記者会見で、自ら「長期金利の変動幅をさらに拡大する必要があるとは考えていない」と述べ、大規模緩和を今後も継続すると主張した。これまで、黒田総裁が拘ってきた大規模緩和は不変で、これからも不変だと主張したのである。

 そんな黒田総裁の拘りを一蹴した形になったのが、冒頭で紹介した岸田総理のBS・テレ東での発言だ。黒田氏の3期目続投をあっさりと否定した。

 現在のところ、永田町では、黒田氏に代わる次期日銀総裁候補について、日銀のプロパー出身者である、現役副総裁の雨宮正佳氏、前副総裁の中曽宏氏、元副総裁の山口広秀氏の3人のほか、黒田総裁と同じ財務省の財務官ポスト経験のある浅川雅嗣・アジア開発銀行(ADB)総裁の名前が取り沙汰されているという。
 前2者は早くから本命視されていたが、後2者は、アベノミクス離れを加速して経済政策に独自色を出したい岸田総理の側近たちが大規模緩和からの出口戦略に熱心とされる山口氏を推し、逆に、アベノミクスの1つだった大規模緩和の存続を熱望する議員や利上げを嫌う議員の間で黒田氏を待望する声がそれぞれ強まっているという。

 4人の中では、前2者、つまり雨宮氏と中曽氏が引き続き、有力候補者だろう。
 だが、4人のうちの誰かが新総裁の椅子を射止めるのか、あるいは別の人物がすい星のごとく現れるのかは、まだ余談を許さない。

 とはいえ、ひとつ確かなことは、誰が新しい総裁になろうと、剛腕で鳴らした黒田総裁時代のような形で大規模緩和が存続すると考えるのは無理があるということだろう。
 なぜならば、ここへきて、大規模緩和策はその効果よりも、弊害の方が目立っていたからだ。
 簡単に列挙すると、①日米間の金利格差拡大を原因とした昨年の歴史的な円安の進行、②潤沢過ぎる流動性が企業の成長意欲を削ぎ、ゾンビ企業を跋扈させた問題、③低過ぎる金利が年金生活者や若者の貯蓄の減少の原因になった問題、④日銀の国債保有割合が膨らみ、財政法で原則禁じられている「財政ファイナンス」を行ったのと同じような状況が出現したこと、⑤債券や株式の市場の機能が損なわれてきた、――といった調子だったのである。

 大規模緩和策は、安倍元総理という精神的支柱を失ったのに続き、今回の総裁交代によって黒田日銀総裁という実務面での推進者も失うことになる。
 来年4月以降、新総裁が就任すれば、その新総裁の人選次第で、緩和策縮小のスピード感や規模において程度の差は出ることは考えられる。
 しかし、大規模緩和策そのものは歴史的な役割を終え、ゼロ金利政策を経て、いずれは欧米のような正常化への道程を辿るのではないか、と見られている。

2023年1月23日

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