一般社団法人 グローカル政策研究所

町田徹 21世紀のエピグラム

増税時期を明記できなかった税制大綱の評価とは?

 防衛費を増額するための安定財源として、自民党税制調査会(宮沢洋一会長)が12月16日、法人、所得、たばこの3税で2027年度に「1兆円強を確保する」と明記した「2023年度税制改正大綱」をとりまとめ、連立与党の公明党の了解も取り付けたことを評価したい。自民党内で旧・安倍派の議員を中心に、財源の裏付けのあやふやな「つなぎ国債」の発行で間に合わせようという無責任な議論が決して少なくなかった現実を考えると、それぞれの増税の内容までしっかりと示し、放漫財政を許さない姿勢を明確にできたことは朗報だった。ただ、その増税の実施時期を玉虫色とせざるを得ず、実現性にやや疑問符が付く格好になった点は残念としか言いようがない。

 筆者は、今回の自民党税調の議論の過程を早くから、興味深く見守ってきた。実施時期の違いもあるが、税調が当初、少額投資非課税制度(NISA)の恒久化といった成長戦略に資する税制改正を急ぐ一方で、防衛関連の増税に関しては、当初から、政治からも国民からも増税アレルギーの強い消費税を選択肢から外して、法人税と「1億円の壁」で有名になった不動産・金融の金持ち優遇税制にまずメスを入れる姿勢をみせていたからだ。
 宮沢氏は、総理大臣をつとめた宮沢喜一氏の甥で、財務省出身だ。もともと財政、金融、税制への総計は深い。その一方で、岸田総理とは選挙区も近く、いとこという関係もあると聞く。そうしたバックグランドもあり、積み増す防衛費増額のための安定財源の確保の重要性を十分に理解しており、周到に準備している状況が伺えたのだ。

 実際、年末に向けて限られた時間の中で、今回の税制大綱は、増税が必要な税金の種類とその増税の規模を明記する成果を挙げた。
 法人増税は、納税額に4%から4.5%を上乗せする「付加税」を課すというもので、年間7000億円程度の増収を見込んでいる。ただ、中小企業についての配慮もあり、2400万円相当分を税額控除すると明記。ほぼ9割の中小企業が免除される見通しだ。
 所得増税も、税率1%の新たな付加税を課すことで、年2000億円程度を確保するというものだ。一方、東日本大震災からの復興事業の財源となっている「復興特別所得税」の税率を1%引き下げるという。ただ、この措置には、2037年に終了するはずだった「復興特別所得税」の徴収が、その後も「最長13年程度続く」(宮沢会長)可能性があるとのことだ。この点は、税制改正大綱の決定8日前の記者会見で「個人の所得税の負担が増加するような措置はとらない」と明言していた岸田総理の発言との整合性が問われる可能性はある。
 はっきり言って、「復興特別予算」は財源を確保し過ぎたきらいがあり、これまでも歳出面での無駄遣いを指摘する声が出ていた予算だ。それだけに、この際、前倒しで廃止して、代わりに防衛費の特別予算化を打ち出す方がすっきりして、筋が良かったのではないかと筆者は考えている。また「1億円の壁」の是正の実態が「30億円の壁」の是正にとどまったことも残念だ。
 3つ目は、たばこ税の増税だ。1本あたり3円相当の引き上げを段階的に行うものだとしている。こちらも、年2000億円程度の財源になるという。

 いずれにせよ、振り返れば、岸田総理が、防衛費の積み増しに2027年度以降、毎年度4兆円が必要で、このうち1兆円強を増税で賄う必要があると政府・与党関係者の会合で明らかにしたのは12月8日のことだ。ここを起点にして、わずか8日間という短期間で、増税する税目と規模を明確に示し、無責任に財政を悪化させないとの姿勢を示したことは、宮沢税調ならではの大きな功績と言ってよいだろう。

 ただ、この短期間の大綱の集約には与党内でも反対が強く、最終的なとりまとめにあたって、実施時期について「令和9年度に向けて複数年かけて段階的に実施することとし、令和9年度において、1兆円強を確保する」とお尻を切りつつも、スタート時期を「施行時期は、令和6年以降の適切な時期とする」と含みを持たさざるを得なかったことは、来年以降に波乱要因を残した格好だ。
 来年早々の通常国会などでは、新たな防衛3文書で示された防衛力の強化策と、税制大綱に盛り込まれた増税に対して、野党の多くが強硬な反対に回るのが確実だ。加えて、前述の税制改正大綱が玉虫色の表現となった部分を盾にとって、自、公の両与党からも検討のやり直しを求めて多くの議員が造反する懸念もある。岸田政権が新たな試練を招くリスクが残った形になっている。

2022年12月19日

COLUMN

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