一般社団法人 グローカル政策研究所

町田徹 21世紀のエピグラム

岸田総理のCOP27不参加は外交的な失敗だ!

 紅海に突き出したエジプト領シナイ半島にある高級リゾート地「シャルムエルシェイク」--。この地では11月11日から18日までの日程で、国連の会議「第27回気候変動枠組条約締約国会議=COP27」が開催知れている。会議には、およそ100カ国の首脳らが参加して、世界の関心を集めている。それにもかかわらず、日本政府は岸田総理が出席しない方針を明らかにしている。
 周知の通り、気候変動対策は世界共通の課題であり、欧米先進国の首脳らも競うようにして参加している中での岸田総理の不参加方針は、それだけで外交上の大きな失点に繋がりかねない。
 客観的にみて、総理不参加の背景にあるのは、山積する内政問題なのだろう。安倍元総理が凶弾に倒れたことから露見した旧統一教会と与党・自民党との癒着や、閣僚の相次ぐ辞任、そしてそれらに伴う内閣支持率の急低下といった問題への対応に、岸田総理が忙殺されていることが大きな影を落しているのだ。ただ、これらはいずれも、早い段階で、しっかりとしたけじめをつけておけば、ここまで問題が深刻にならなかったと推察される案件ばかりだ。
 こんなことでは総理の政権運営能力に疑問符がついてもおかしくない状況になっている。

 そもそもCOP27の焦点は大きく分けて2つある。
 第一は、気候変動枠組条約の事務局と国連環境計画(UNEP)がCOP27の直前に公表した報告書で明らかにした問題への対応だ。最新の分析によると、各国の現在の削減目標を合わせても、2030年の世界の気温が今世紀中に産業革命前に比べ2.5度前後上がってしまうことから、1.5度以内に気温上昇を抑えて異常気象の深刻化を防ぐという目標の達成には、各国の対策の積み増しが必要だというのである。この問題では、世界最大の温暖化ガスの排出国である中国や同じく第2位の米国の対応が特に注目されていた。
 第2は、気候変動対策のための資金支援の問題だ。途上国の財政難を解消して気候変動対策を進めさせるため、先進国は、すでに表明していながら履行が遅れている資金協力を早期に実現することや、資金協力の一段の拡大を迫られていた。加えて、途上国は実際に受けた被害に対するリカバリーの資金の提供も求めており、日本を含めて先進国は対応を求められていた。

 そこで、COP27は、11月7、8日に首脳級会合を開催。約100カ国が競うように参加した。途上国が口々に窮状や先進国への援助を迫る一方で、欧州の先進諸国からも、フランスのマクロン大統領、ドイツのショルツ首相らが参加、一定の存在感を示した。英国のスナク首相も、当初不参加の方針を打ち出していたが、国内の環境派から集中砲火を浴びて、急きょ参加。自国の貢献策などを披露した。
 だが、首脳級会合での各国首脳の演説を総合すると、対策の積み増しの面でも、資金協力の拡大の面でも、不十分の感は拭えなかったのだ。

 そうした中で、多くの国々から潮目が変わるかもしれないと好意的に受け止められたのが、米国のバイデン米大統領が11月11日に行った演説である。
 もともと気候変動対策は、バイデン政権にとって看板政策の一つだ。トランプ前政権が離脱した気候変動対策の国際枠組み「パリ協定」に、同政権が復帰した経緯もある。
 今回、バイデン氏は「最近8年は観測史上最も暑かった。ハリケーンが猛威を振るっている」と米国も気候変動で大きな影響を受けていることを強調。そのうえで、ロシアによるウクライナ侵攻が「食糧不足、エネルギー危機、世界的インフレを招いた」と指摘し、「化石燃料からの転換の必要性を一段と強めた。どの国もエネルギーを武器に使って世界経済を人質にしてはいけない」と批判した。
 その一方で、気候変動対策のための米国内法の整備が進んでいることに触れたほか、今後を睨んでCO2(二酸化炭素)以上の温暖化をもたらすとされているメタンの排出削減でも、各国が協力する必要性を訴えた。
 さらに、途上国支援にも力強く言及した。アフリカの気候変動対策に1.5億ドル(約200億円)、気候変動の影響を受ける途上国の「適応基金」に1億ドル(約140億円)を拠出すると誇らしげに表明したのである。
 米国では依然として連邦議会の中間選挙の大勢が判明していないタイミングだったばかりか、11月15日以降、東南アジアでいくつもの国際会議が開かれることから、日程が超タイトにもかかわらず、あえてエジプトに駆け付けて、わずか3時間という滞在を実現。気候変動対策の重要性と米国のコミットメントを謳い上げてみせたのである。
 報道によると、こうした演説に対し、先進国の中には「大変なのは実行すること。表明したことをすばやく実行するよう願っている」と冷ややかな声もあったという。とはいえ、途上国からは「パワフルで素晴らしい新たな約束だ。適応のための資金倍増を歓迎する」「バイデン大統領は気候変動との戦いをリードしようとしている。他の首脳にはこれほどの情熱がない」といった好意的な評価が聞かれたとされている。

 これに対し、日本は11月9日、環境保護を訴える国際的な非政府組織(NGO)である「気候行動ネットワーク」から、またしても、不名誉なことに、気候変動対策に消極的な国として「化石賞」を送られた。石炭などの化石燃料向けの投資を削減するという世界的な潮流に逆らって、公的資金の拠出や輸出を行い、「石炭発電の延命」をしているなどと糾弾されたのである。
 これまでも日本は、COPのたびに、ほぼ毎回、化石賞に選ばれているが、筆者にはこうした批判が的を射ているとは思えない。というのは、日本が推進している石炭火力発電は、CO2を垂れ流す古いタイプのものではなく、アンモニアや水素と混焼してCO2の排出を減らしたり、発生したCO2を回収・埋設したりすることによって、気候変動対策に寄与しようとするものだからである。
 とはいえ、こうした批判が繰り返されている以上、日本政府は、岸田総理が先頭に立って、日本の試みが現実的に気候変動対策を推進しようという試みであることを、NGOを含む国際社会に対してもっとしっかりと説明して理解深める必要があることは明らかだ。
 もちろん、バイデン米大統領が打ち出したように、一定の国際貢献を示し、気候変動対策で国際的な指導力を発揮する努力も欠かせない。
 そうした姿勢を示すのに格好の場であるCOP27に参加しないことは、みすみす外交で大きな失点をするオウンゴールのような行為と言わざるを得ない。
 今からでもまだ遅くはない。エジプトのシャルムエルシェイクに行く日程を確保できないのなら、インドネシアで11月15、16の両日に開かれるG20(20か国・地域)首脳会議の首脳演説の折でも、言わないよりはずっとましである。こういう大舞台で、国際社会に向けて、岸田総理はしっかりとした日本の気候変動対策を発信すべきである。

2022年11月14日

COLUMN

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