一般社団法人 グローカル政策研究所

町田徹 21世紀のエピグラム

3年間で5度目の大型経済対策は大型増税を招く

 岸田政権が10月28日、歳出・歳入で29兆1000億円規模の一般会計の2022年度第2次補正予算を裏付けとする総合経済対策を決めた。
 これは安倍政権末期の2020年度から菅政権、岸田政権の3年間で、通算5度目となる大型の経済対策だ。
 財政赤字は深刻化して、今回の対策がなくても、今年度(2022年度)末に1000兆円を突破する見込みだった国債の発行残高の増加ペースを一段と加速する。
 放漫財政の危うさは短命に終わった英トラス前政権の末路を見れば、明らかだ。防衛費の大幅積み増しが不可欠とされる中で、緊急性の乏しい今回の巨大経済対策は、将来の増税の実現開始時期を早めるだけでなく、増税の規模も膨らませるきっかけになりそうだ。

 今回の総合経済対策は、前述のように裏付けとなる今年度の第2次補正予算案の規模が一般会計で29兆1000億円に達するほか、これに財政投融資などを入れた財政支出が39 兆円。民間投資などを加えた事業規模が72兆円となる。政府は月内に、国会に具体的な補正予算案を提出、年内の成立を目指し、来年1月早々から予算を執行したいとしている。

 だが、岸田総理を含め、与党の政治家の多くが、この規模の大きさだけに拘泥、大きいことを良いことだと言い、胸を張っていることは、多くの弊害を招きかねない。
 補正予算の政府案作りの段階で、財務省が一般会計の補正予算額を25兆1000億円とする素案をまとめ、これを鈴木財務大臣が与党との協議を飛ばして岸田総理に直接説明したところ、与党が猛反発。わずか1日で4兆円も増額されて29兆1000億円に膨らんだことは、規模重視の政府・与党の姿勢に加えて、無駄遣いが多い可能性も浮き彫りにしている。今回、新型コロナや物価高対策のためと称し、またも「予備費」を3億7000万円増額するとしていることは、本当に必要な予算の積み上げをおろそかにして巨額対策ありきの編成をしたことを伺わせる。

 実際、規模重視の姿勢はこのところ、補正予算の水膨れと、経済対策の乱発を招いてきた。振り返ると、リーマン・ショックを受けて麻生内閣が編成した2009年度の第1次補正予算以降、過去14年間に、規模が10兆円を超える大型補正予算は今回のものを含めて8回ある。
 このうち、麻生政権下の補正予算が13兆9000億円だったほか、東日本大震災を受けて野田内閣が編成した2011年度の第3次補正予算の規模は12兆1000億円、同じ目的で安倍内閣が2012年度に編成した補正予算の規模が13兆1000億円と、あの頃までは10兆円の大台を超えると巨大経済対策とされていた。
 ところが、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、安倍政権が末期の2020年度の第1次補正予算で25兆7000億円規模、同じく2020年度の第2次補正予算で31兆9000億円規模の補正予算を編成してから、歯止めが効かなくなった。同じく2020年度の第3次補正は、政権が菅内閣に代わったものの、19兆1000億円と巨大規模が続き、岸田内閣になってからは昨年度の補正予算が31兆5000億円規模、そして今回が29兆1000億円規模となったのだ。
 そもそも、補正予算を組んで経済対策を打つのは、歴史的な自然災害や経済危機が生じた時、つまり経済的な有事の際に限られた施策のはずだ。それなのに、2020年度に3度も巨大経済対策を編成後、毎年、恒例行事のように巨大経済対策が繰り返されている問題も見逃せない。

 これだけ、巨額対策が繰り返されれば、必然的に財政赤字は膨らむ一方だ。歳入を確保するために、国債発行残高は急膨張している。2019年度末まで5年連続で800兆円台にとどまっていた国債発行残高がその後の3年間で急増し、今年度末(2022年度末)には、今回の補正予算分を含めなくても1026兆円とついに1000兆円の大台を突破する見込みになっている。
 巨額の財政赤字は、いずれ、どこかで許容される範囲を超えて、今市場で起きている以上の急速な円安や猛烈なインフレ、日本国の財政への信用の崩壊に繋がっても何ら不思議はない。トラス英政権が鳴り物入りでエネルギー高騰対策と大減税を柱とした経済対策を打ち出した途端、英ポンドや英国債が暴落し、対策撤回どころか、政権が異例の短命に終わったことは、そうした放漫財政のリスクを改めて裏付けた。

 将来のリスクを回避するためには、今の放漫財政にピリオドを打つ必要がある。
 一方で、日本が、ウクライナ侵攻を強行するロシアや、台湾の武力統一も否定しない習近平・中国、そして、連日、弾道ミサイルの発射を繰り返す北朝鮮といった国々に囲まれ、防衛費の大幅な増額をしなければならない状況に置かれていることも重要だ。
 もちろん、防衛費の拡大のためには、歳出カットや支出の見直しは不可欠だが、それだけでは防衛予算の安定財源の確保もままならないだろう。財政再建の財源確保と併せて、大型の増税が避けられず、安倍、菅、岸田と続いた放漫財政が、歴史的な苦境を招いたことが誰の目にも明らかになる日が来るはずだ。

 ちなみに、数年後に予想される大増税の対象は、消費税を除く、広範な増税になる可能性が強い。というのは、消費税は10%にあげて消費を落ち込ませた”前科“があるから、例外扱いされる可能性が高いのだ。
 増税の主役は、法人税になるとみられている。というのは、米バイデン政権が発足以来、他国によるGAFAなど米大手IT企業への課税を容認したことを受けて、企業誘致のための国際的な法人税の引き下げ競争の時代が終わりを告げようとしているためだ。日本でも、過去20年あまり続いてき法人に対する税制優遇の見直しがもともと不可欠になっていた。
 金融所得課税を強化し、年収1億円を超える高額所得者への税負担を強化する動きも一部にある。
 とはいえ、対象が企業や金持ちにとどまることもないだろう。そもそも、防衛の強化によって戦争が抑止され、平和が維持されることのメリットを享受するのは、何も企業だけではない。しかも、例えば、現行の平均で23.2%程度の法人税を仮に3%引き上げたとしても、税の増収は1.2兆円前後ではないかとみられている。
 他の歳出の見直しや必要な防衛予算次第とはいえ、防衛費増額の恒久財源を確保しつつ、財政再建に手を付けるためには、この2、3倍の税収が必要になってもおかしくない。このため、勤労者が納税義務を負う所得税のほか、酒税、たばこ税なども幅広く増税の対象になる覚悟をしておく必要がある。

2022年11月8日

COLUMN

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