一般社団法人 グローカル政策研究所

町田徹 21世紀のエピグラム

対症療法に終始した政府の物価高対策
6月の第2弾が政権の真価を問うヤマ場に。

 岸田政権は先月(4月)26日の関係閣僚会議で、円安やロシア軍のウクライナ侵攻の影響で加速している諸物価上昇に対する「原油価格・物価高騰等総合経済対策」を取りまとめて公表した。総額で6兆2000億円の国費を投入するというもので、財源はすでに予算措置が終わっているもののほか、国会審議を必要としない「予備費」を充当する一方で、使った予備費の穴埋めと積み増しのために今国会で補正予算を編成する方針だ。支出の柱は、①原油高対策(予算規模1.5兆円)、②エネルギー・原材料の安定供給対策(同0.5兆円)、③中小企業対策(同1.3兆円)、④生活困窮者支援(同1.3兆円)―の4つとなっている。
 「物価高対策に盛り込まれたことは対症療法ばかりだ」との批判をかわす狙いもあるのだろう。
 岸田文雄総理は対策発表の席で、同政権の経済財政運営を「2段階のアプローチ」で進めると強調した。第1段階は速やかな対応が必要な措置で、これが今回の物価高対策だという。第2段階は、政権の経済政策の全体像を盛り込んだ「新しい資本主義」の実行計画、「経済財政運営と改革の基本方針」(骨太の方針)といった、いわば抜本策に相当するもので、こちらは6月までに策定する計画という。
 このところの物価上昇は、新型コロナウイルス感染症のパンデミックからいち早く立ち直り、回復軌道に乗った国々の需要回復に伴う石油、天然ガス、石炭などの化石燃料や鉱物資源、穀物の需給のひっ迫が発火点だ。
 これに対して、日本経済は回復テンポが遅く、日銀が他の主要国の中央銀行と足並みを揃えて金融政策の正常化に踏み切れないことから円安が急ピッチで進む中、ロシア軍のウクライナ侵攻に伴う混乱が物価高に拍車をかけている。加えて、日本が西側諸国の一員としてロシアに対する制裁に積極的に参加していることが、物価上昇を加速する格好にもなっている。
 そういった点を勘案すれば、政府が物価高を抑えるための抜本策に取り組むことは当然と言える。原材料価格の高騰に窮する企業や生活を圧迫されている家計に対して、政府が何らかのセーフティネットを提供する必要性も否定はできない。
 しかし、今回の対策では、小手先の対症療法が目立つのも事実だ。例えば、最も多くの国費を拠出する原油高対策は、ガソリン価格の高騰を抑えるために石油元売り各社に支給している補助金の期限を4月末から9月末まで延長し、上限を現行の1リットルあたり25円から35円に引き上げるというものだ。これにより、小売価格の抑制目標を172円程度から168円程度に引き下げるとし、さらに原油価格が高騰した場合でも超過分の2分の1を支援すると説明している。
 しかし、こうした財政資金を投入した価格抑制策の問題点は、単なる対症療法ということにとどまらない。先に国際通貨基金(IMF)が、「本来ならば、企業や国民が節約意識を持つことで実現が早まるはずの化石燃料依存体質からの脱却を阻害するリスクもある」として、先進各国に自重を促した対策に他ならないのだ。地球温暖化対策に逆行するというわけである。
 また、今回の対策は、生活困窮者への支援として住民税非課税世帯などの子どもに1人あたり5万円を給付するほか、22年度から新たに住民税が非課税になった世帯にも10万円を支給する施策を盛り込んだ。
 こちらは、政府・自民党が経済波及効果の薄いバラマキとみなして当初見送ろうとしていたものを、連立与党の公明党の主張に譲歩して実施を決めたものである。近く投票が行われる地方選挙をにらんだ選挙対策として盛り込まれた、人気集め政策との批判を免れない。長年の放漫財政で政府の台所が苦しい中、こうした施策への支出が本当に必要だったのか、大いに疑問である。
 人気取りと言えば、岸田政権の経済面での抜本策が盛り込まれる「第2段階のアプローチ」の取りまとめ期限が6月までとなったことにも、同様の問題がありそうだ。今年の参議院議員選挙の投票日が7月10日になることが有力視されているからである。
 こうした中で、気掛かりなのが、岸田総理が記者会見で、「再生可能エネルギーの最大限の導入と原子力の活用を進めることも極めて大切だ」と主張したことだ。このうち、原発の活用については、民放のテレビ番組で、「安全については譲れない」と前置きしたうえで、「原子力規制委員会の審査について合理化を図り、審査体制も強化しながら可能な原発は動かしていきたい」と話している。
 こうした方針は、歴代の自民党政権の決まり文句になっている。しかし、あの東京電力の福島第一原子力発電所の事故以来、東日本の原発では周辺住民の理解を得られず、再稼働できない状態が続いてきた。また、比較的順調に稼働している西日本の原発も含めて、各発電所の敷地内に保管してきた使用済み燃料の中間貯蔵スペースのほか、最終処分地がいまだに決まっていない問題も大きな障害になっている。岸田総理が本気で原発の再稼働を本格的に進めてくのならば、今度こそ、こうした諸懸案に抜本的な対策を打ち出すことが必要だ。6月の第2段階の施策にどこまでそういった抜本策が盛り込まれるかが、岸田政権の鼎の軽重を問うことになるだろう。

2022年05月02日

COLUMN

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