一般社団法人 グローカル政策研究所

町田徹 21世紀のエピグラム

総理が策定を指示した物価高対策に求められること

 岸田総理は3月29日午前の閣僚懇談会で、関係閣僚に対して、コロナ渦で発生したウクライナ危機に伴う原油や穀物の価格高騰に関する対応策「原油価格・物価高騰等総合緊急対策」の策定を指示した。その対策の柱は、①原油高対策、②食料・資源高対策、③中小企業支援策、④困窮者支援策――の4つだ。新型コロナ対策の5兆円を含む総額5兆5000億円の予備費から財源を拠出することを想定しており、4月末までにとりまとめる方針としている。
 総理官邸のホームページに掲載されている「原油価格・物価高騰等総合緊急対策」を巡る総理の発言要旨をみると、「ロシアによるウクライナ侵略などの影響により、原油や穀物の国際価格が高い水準で不安定に推移するとともに、一部の水産物等の安定供給に懸念が生じている。原油や原材料、食料価格の高騰等が国民生活や経済活動に重大な影響を及ぼし、社会経済活動の順調な回復の妨げになるようなことは避けねばなりません」と書かれており、その趣旨は尤もだ。
 しかし、各論をみると、首を傾げたくなる問題もある。例えば、原油高対策では「更に高騰し続けた場合への対応について、何が実効的で、有効な措置かという観点から、現在講じている措置の効果も見極めつつ、あらゆる選択肢を排除することなく検討」と述べるにとどめ、議論を、現在行っている石油元売り各社の補助金の継続と、燃料価格の高騰が続いたときにガソリン税を一時的に引き下げる「トリガー条項」の発動ぐらいにとどめようという意図が透けて見える点はいただけない。その後の萩生田経済産業大臣らの発言を聞いていても、選択肢はその2つに限られているのは明らかだ。
 その一方で、天然ガスの輸入先としてロシアに多くを依存してきた欧州諸国が目下議論しているのは、その依存度の引き下げであり、米国産のシェールオイルへの置き換えなどを具体策として検討しているからだ。これでは、総理が指示した対策が当面の緊急対策という位置づけであったとしても、大局を見ておらず近視眼的かつ刹那的な“浪費”に終わらないか危惧せざるを得ない。
 本来ならば、ここで一番に望みたいのは、この機会にこそ、いわくつきの税金であるガソリン税の税制を抜本的に見直すことである。ガソリン税は、国税である揮発油税と地方税である地方揮発油税をあわせた総称だが、もともとは道路特定財源として設定された経緯があり、その暫定税率の廃止後もなし崩し的に税の使用目的を一般財源に変えて維持されてきた。
 しかも、ガソリン税など複数の税金とガソリン本体価格の合計額に一括して消費税を課す仕組みで、ガソリン税相当分に消費税を課していることについて、自動車、石油などの関連業界から長年、是正を求められてきた。税金に税金をかける「2重課税」という問題だ。加えて、2012年10月からは新たに「地球温暖化対策のための税(環境税)」もガソリン価格に上乗せされている。
 財政当局の都合で、トリガー条項の発動が凍結されてきたことも問題だ。ガソリン価格が高騰して「レギュラーガソリン価格の全国平均で、1リットル当たり160円を3ヵ月連続で超えた場合」には、自動的にガソリン税を引き下げて価格の安定化を図るべく、2010年の税制改正時に同条項が導入されたにもかかわらず、2011年に発生した東日本大震災の復興財源を確保するためという名目で、発動が凍結されてしまっているからである。あれから12年が経とうとしているのに、今なお凍結したままで野放図な歳出を許す原資のひとつになってきた。菅前政権時代に国策としてカーボンニュートラル(脱炭素)の加速を掲げた以上、こうした継ぎ接ぎだらけのガソリン税制は廃止して、本格的な炭素税への移行することが時宜を得ているはずなのだ。
 さらに、政府・与党が存続を目論む、現在のガソリン高対策の補助金が、ガソリン価格を決めて販売するガソリン・スタンドではなく、石油元売り各社に支給されている点も、直接的な効果がないとされるばかりか、ガソリン・スタンドの経営の安定に繋がらず、地域のガソリンの安定供給や価格安定の保証になっていない。
 この点では、石油の安定供給のために海外の油田の権益を確保するための支援策を早急に検討すべきだ。主要7カ国(G7)メンバーとしてエネルギーのロシア依存度を引き下げていく課題がある中で、液化天然ガス(LNG)も含めて、日本政府や総合商社が権益を持ち、日本の電力会社が安定調達先と考えてきた極東ロシアのサハリン1,サハリン2といったプロジェクトの扱いをどうするのか、その代替調達策の確保をどうするのかといった議論も避けては通れない。
 また、国策であるカーボン・ニュートラルの加速にも役立つのだから、クルマや住宅の省エネの促進によって、これまでほど石油を必要としないように社会・経済構造を迅速に変えていくことも目指すべきである。
 ガソリン高に苦しむ個人や中小企業を支援するには、使った分だけ税額控除をするのも、ひとつの手のはずである。
 物価高対策には、こうした議論を踏まえたワイズ・スペンディング(賢い支出)を切に望みたい。

2022年04月04日

COLUMN

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