一般社団法人 グローカル政策研究所

町田徹 21世紀のエピグラム

注目の選挙が目白押しの2022年、
米中間選挙は特に目が離せない!

 早や、2022年を迎えて10日あまりが過ぎた。世界各地でとどまるところを知らない猛威を振るう新型コロナウイルスのオミクロン株のニュースが内外のマスメディアを賑わせている印象が強い。とはいえ、今年も「選挙イヤー」と呼ばれるほど、各地で見逃せない選挙が目白押し。そこで、今回は注目の選挙とその焦点を整理しておきたい

 今年の1月6日は改めて、米国が「選挙イヤー」であることを思い起こさせる日となった。トランプ前大統領の支持者によるアメリカ連邦議会の議事堂占拠事件からちょうど1年の節目を迎えたのだ。
 あの事件では、5人が命を落とし、少なくとも数百人が負傷した。逮捕者はおよそ700人に及び、150人近くが有罪となったとされている。米国で、民主主義の殿堂である議会の議事堂が武力攻撃を受けたのは、1812年に火ぶたが切って落とされた「第2次アメリカ独立戦争」(米英戦争)の際に、イギリス軍に一時首都ワシントンを占領されて以来のことという。それだけに、自国民による襲撃のショックは大きく、民主主義国のリーダーを標榜してきた国家・米国にとってあってはならないことだった。
 しかし、直前の集会で、「ペンシルベニア・アベニューを進め! 連邦議会に行くぞ!」と叫んで、何千人もの支持者が暴徒と化すことを煽ったトランプ前大統領の責任はまだ明確になったとは言い難い。
 バイデン大統領は今年1月6日、占拠事件の舞台となった議事堂内で演説し、「1年前、この神聖な場所で民主主義が攻撃された。歴史上初めて暴徒が議事堂を破壊し、平和的な権力の移譲を阻止しようとした」「(トランプ氏は)2020年の大統領選について、うその網をつくり、広げている」などと語り、明確に占拠事件を暴挙と位置付け、トランプ氏の責任を追及した。
 しかし、相変わらず、トランプ氏は健在だ。バイデン演説の直後に声明を出し、「バイデン(大統領)は、今日、私の名前を使って米国をさらに分裂させようとした」「大うそは選挙そのものだった」と言いたい放題で、「今年は(米連邦議会の中間)選挙の年だ。共和党員は選挙に出て、私と一緒に働くべきだ」と強調。中間選挙を布石に、2024年の大統領選挙に捲土重来を期す覚悟を鮮明にした。
 トランプ氏の勢いが衰えない背景には、民主党が同氏の責任を追及し切れなかった問題がある。昨年2月の弾劾裁判でトランプ氏を有罪に追い込めず、7月になって特別委員会を下院に設けたものの、ほとんど注目されず、遅々として調査が進まなかったと批判されている。各種の世論調査も、依然として米国民の3分の1前後が「大統領選挙は不正があった」と誤解。貧富の格差も相まって、米国社会の「分断」解消は進んでいないとされている。

 こうした中で、議事堂占拠事件の1周年に先立ち、米国のコンサルティング会社「ユーラシア・グループ」は1月3日、恒例の「世界の10大リスク」を発表し、今年第3位のリスクに、「US midterms」というタイトルをつけて、この秋の中間選挙に言及した。「米国史上最も重要な選挙のひとつとなるだろう。民主党と共和党の双方が不正疑惑を唱える中で投票が行われ、ドナルド・トランプが出馬すれば、完全勝利するか、(勝利できなければ)『盗もう』とするだろう」「今年の投票は、歴史的な転換点を意味している」と位置付けたのだ。民主党は、首都ワシントンに隣接するバージニア州知事選挙で敗れるなど、バイデン政権の支持率が下落傾向にあるだけに、中間選挙の行方から目が離せない。なお一層、国際社会での米国の指導力が低下する結果に繋がりかねないことを認識して注意深く見守るべきだろう。

 一方、われわれ日本人にとって、米国の中間選挙に勝るとも劣らぬ重要な選挙が7月上旬にも実施される見通しになっている。参議院議員選挙である。この選挙の最大の焦点は、野党が与党の勝利を阻止することなく、岸田政権が長期の安定政権へ向けて地歩を固めることができるかだ。
 筆者は定点観測的に永田町(政治家)や霞が関(官僚)、丸の内・大手町(大企業経営者)を取材しているが、昨年暮れ辺りから霞が関を中心に岸田政権の長期化を待望する向きが意外に増えており驚かされている。彼らの多くは、官僚人事を人質にとって、首相肝入りの政策の実現をトップダウンで迫るスタイルを採ってきた安倍、菅両政権に震え上がっていたのだが、ボトム・アップを掲げて官庁の意向を尊重する岸田総理の登場に緊張感が緩み、安堵しているというのが実情なのである。
 特に、財務省の関係者には、2021年度の補正予算と2022年度の当初予算で財政出動がかつてない規模に膨らみ、財政赤字が深刻化していることを危惧するよりも、岸田長期政権が実現すれば財政再建が再び軌道に乗ると楽観的に期待する向きが多いことに首を傾げざるを得ずにいる。財務省関係者らは、岸田政権がかつてない財政出動でばら撒きを行う動機について、与党が参議院選挙で勝利を収めることが目的といい、それゆえ長期政権になれば、これ以上のばらまきが無くなると期待しているのだ。しかし、ひとたび緩んだ財政のタガを引き締めるには硬い決意と膨大なエネルギーが必要になる。優柔不断な岸田政権にそうした能力があるのか疑わしい。自動的に垂れ流しが止まるような議論には頷けない。

 最後に触れておきたい2022年の注目の選挙は、韓国とフランスの大統領選挙だ。3月の韓国大統領選は、ムン・ジェイン氏の後継を選ぶもので、5月に新政権が発足することになっている。韓国内の世論調査では、革新系与党「共に民主党」のイ・ジェミョン氏と保守系野党「国民の力」のユン・ソクヨル氏が競う構図となっている。このうち、イ氏は「日本はいつでも信用できる友好国なのか」と述べ、中国に傾斜しかねない指導者とされる。一方、ユン氏は、ムン政権で日韓関係が悪化したと指摘、「歴史問題と経済、安全保障協力などを網羅した包括的解決を模索する」としており、日韓関係の改善へ向けた動きが活発化する可能性があるという。ただ、ユン候補は、奥さんの経歴詐称疑惑を機に支持率が急落、候補の交代も取りざたされており事態は予断を許さない。

 フランス大統領選は4月の予定で、世論調査の支持率は、現職のマクロン氏が4人の有力候補の中で首位を保っている。中道右派の統一候補・ペクレス氏が対抗馬で、極右「国民連合」党首のルペン氏と、極右評論家のゼムール氏らが追う展開だ。万が一、マクロン氏が権力の座を追われて、フランスが右傾化するようなことがあれば、EUの結束に亀裂が生じかねない。

2022年01月11日

COLUMN

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