一般社団法人 グローカル政策研究所

町田徹 21世紀のエピグラム

「夏の参議院選挙まで」で、放漫財政は改まるのか?

 岸田政権は12月20日、過去最大の補正予算を国会で成立させ、23日に来年度の経済見通しを上方修正したうえで、24日には過去最大の107兆円あまりに膨張させた来年度予算案を閣議決定した。いずれも、すでに巨額の日本の財政赤字をさらに悪化させる政治決定と言わざるを得ない。いったい、いつまで、こうした愚行が繰り広げられるのだろうか。

 まずは、20日に参議院本会議で成立した2021年度の補正予算だ。一般会計の追加歳出の総額は、補正予算として過去最大の35兆9895億円。この結果、21年度の歳出は当初予算と合わせて142.5兆円の巨額にのぼった。単年度の歳出としては、新型コロナウイルス危機対策を名目に補正予算を3度も組んだ昨20年度の175兆円に次ぐ規模である。
 今回も、新型コロナ危機対策を大義名分にしており、財政支出で55.7兆円に達する経済対策の裏付けとなっている。だが、現金5万円とクーポン5万円に分けて配布するのが良いのか、一括して現金で配るべきなのか、わずか16日間しか会期が無かった臨時国会の貴重な審議時間の多くを与野党が費やした、18歳以下への10万円相当の給付に必要な予算は1兆2162億円に過ぎない。その他の支出や総額35兆9895億円の支出が適切なのかといったより本質的な議論を怠ったことは、政府と国会の見識の乏しさとして記録されることになるだろう。

 日付は前後するが、次は、今年度の補正予算とセットで「16カ月」予算と位置付けられている来年度予算に触れたい。107兆円余りの来年度予算と合わせれば、一般会計の歳出総額は143兆円を超える。実は、この「〇〇カ月予算」の総額は、過去数年間100兆円前後で推移してきた。が、前年に122兆円に増え、そして今回さらに20兆円以上膨らんだ格好となっている。新型コロナ危機に異例の規模の財政支出で対応した結果である。
 以前から、国家予算編成では、本予算の膨張を抑えるため、本来は想定外で緊急性の高い支出を賄うためだけに編成する補正予算で、各省庁の恒常的な予算要求に応じることが常態化していた。つまり従来ならばあまり膨らまないはずの本予算が、来年度は大幅に膨張することになった点は、日本の財政が一段と深刻な状態に陥っていることの表われに他ならない。
 社会保障費の予算全体に占める比率が3割に迫っていることは、その中でも最大の問題だ。実額が36兆2735億円と、今年度の当初予算に比べて4393億円(1.2%)も膨らんだ。来年度から、人口の多い団塊の世代が医療費の膨らむ後期高齢者(75歳以上)になり始め、支出の自然増が着こまれていることが、その背景だ。薬価の引き下げや繰り返し利用できる処方箋による通院回数の抑制によって支出の増加を2000億円程度抑えたというが、焼け石に水である。
 新型コロナ対策で膨張した債務の返済が歳出を膨らませていることも大きい。来年度末の国債残高は1026兆5000億円と過去最高になる見通しで、償還や利払いに充てる国債費は24兆3393億円と5808億円(2.4%)増え、2年連続で過去最高を更新すると見込まれている。
 だが、この見積りで足りる保証はない。米連邦準備理事会(FRB)や欧州中央銀行(ECB)、イングランド銀行(BOE)といった欧米の中央銀行が金融政策の正常化に舵を切り、それを加速している以上、欧米通貨に対して円安が進み、日銀も大規模な金融緩和の修正を迫られるリスクがあるからだ。円の長期金利が上昇し始めれば、国債費が急膨張して財政を圧迫、想定外の大規模増税を早期に迫られることになりかねない。

 一方、来年度の政府経済見通しの上方修正も嘆かわしい。政府経済見通しは翌年度の税収を見積もる前提になるもので、長年にわたって翌年度予算をバラ色のシナリオにするため、これまでもまるでペテンのような国家的水増しが横行してきた。
 今回も、来年度については、民間シンクタンク18社平均の予測3.0%に対し、政府見通しは3.2%と高めに見込まれている。
 しかし、その水増しぶりは、期限が近付いて下方修正せざるを得なかった今年度見通しを見れば一目瞭然だ。特にひどいのが、名目GDPの見通しの推移である。当初が4.4%、中間見直しが3.1%、足元が1.7%と下がり続けてきた。当初と足元では2.7㌽も下振れし、実に半分以下になったのである。日本は、こうした国家的な水増し見通しが詐欺的で無責任だと責任を問われることがない不思議なお国柄である。
 岸田政権の放漫財政振りを取材すると、財務省関係者やエコノミストから昨今必ずのように戻ってくるのが、「来年7月前半実施の公算が高まっている参議院選挙までは、仕方がない。岸田政権も自民、公明の連立与党も、そして対峙する野党も揃ってバラマキが自分たちの選挙を有利に導くと考えている」という回答だ。だが、参議院選挙が終われば、政府や与野党のバラマキ体質が改まると考えるのは甘いのではないだろうか。与野党が競うかのように、参議院選挙に向けてさらなるバラマキ政策を公約する懸念は大きく、そうなれば財政赤字がとどまることなく拡大し続ける懸念が大きいからだ。マーケットがいつまでそうした放漫財政を許容してくれるのか。来年も懸念が尽きない年になりそうだ。

2022年01月09日

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