一般社団法人 グローカル政策研究所

町田徹 21世紀のエピグラム

タリバン政権の復活に備え、
日本がとるべき対応は?

 8月15日、米軍の撤収作戦が続くアフガニスタンで、首都カブールがイスラム主義武装組織タリバンの掌中に落ちた。親米政権は瓦解し、米国中心の「テロとの闘い」(アフガン戦争)が失敗に終わったのだ。結果、アフガニスタンでは人権の蹂躙が懸念されている。国際社会はアフガニスタンが2001年の911テロ(米同時多発テロ)当時のようなテロリストの巣窟に戻ることを憂慮せざるを得ない。今回は日本が採るべき対応を整理しておきたい。
 まずは、日本人の救出と希望するアフガニスタン人の脱出支援だ。日本は主要7カ国(G7)で唯一、カブール陥落翌日に自国機で自国民の救助をできず、大使館員12名は英軍機でカタールに避難した。外務省は在留邦人数を公表していないが、まだ援助関係者を中心に日本人が残っている。希望するアフガン人を救出するためにも体制整備は急務だ。すでに英国が今後数年間に2万人を受け入れると表明しているが、アフガン難民の移民としての受け入れも早急に検討しなければならない。
 もう一つは、独自に、そして国際社会と連携して、タリバンに民主的でテロリストを支援しない国作りを促すことだ。また、アフガニスタン問題に限っては、中国との連携を探る必要がある。
 中国メディアはここぞとばかり、アフガニスタンから撤退する米軍を揶揄して「米国はいざとなれば簡単に同盟国を見捨てる」「アフガンは明日の台湾だ」などと報じている。天然資源への下心もあるのだろう。中国の王毅外相はカブール陥落後、英国のラーブ外相やイタリアのディマイオ外相と電話で会談、タリバンには「(性急に)圧力を加えるのではなく、励まして導くべきだ」などと強調、タリバンに対してより融和的なポジションをとっている。
 しかし、中国はアフガンと長い国境線を接し、新彊ウイグル自治区には中国がテロリストと決め付ける、独立を求めるイスラム勢力がある。その勢力のタリバンやアルカイダとの連携は中国にとって悪夢のシナリオだ。アフガニスタンを国際テロリストの巣窟にしないことは、日米欧はもちろん、中国にとっても大きな利益であり、この点で連携できる可能性を活かすべきだ。
 タリバンへの圧力では、同国経済の脆弱さに留意すべきだ。世界銀行の統計で2020年の1人あたり国内総生産が508ドルと「最貧国」レベルにあり、通貨アフガニは大きく下落して、8月18日に1米ドル=86.05アフガニと、データが存在する1999年以降の最安値をつけた。
 食糧危機も深刻だ。外国通信社電によると、世界食糧計画(WFP)のアフガニスタン事務所は、同国の人口の3分の1に相当する1400万人が深刻な飢餓か、餓死寸前という危機に直面していると警告している。
 アフガニスタンは援助に依存してきたが、国際通貨基金(IMF)は8月18日、タリバンによる支配が国際社会に認知されていないことを理由に援助を停止、特別引き出し権(SDR)も行使できないようにした。バイデン米政権もアフガニスタン中央銀行の米国内資産(約1兆円)を凍結。ドイツも年4億3000万ユーロ(約550億円)の援助打ち切りを表明した。
 こうした措置は非情なものだが、早期にタリバンに人権擁護を公約させるとともに、テロリスト支援を断念させるためには効果的な選択だ。その効果を維持するために、日本も早急に足並みを揃える必要がある。あわせて、中国や、旧ソ連時代からアフガンのイスラム勢力を警戒してきたロシアに対して、抜け駆け的な援助を自制するよう合意を取り付けることも重要になっている。

2021年 8月23日

COLUMN

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