一般社団法人 グローカル政策研究所

町田徹 21世紀のエピグラム

新型コロナの起源を特定できなかったWHO調査の深刻さ

 世界保健機関(WHO)は先月末(3月30日)、中国・武漢での調査報告書を発表したものの、肝心の新型コロナウイルス感染症の発生源の特定に失敗した。共同研究と称して調査に関与した中国の相変わらずの対応が影を落とした。国際機関としてWHOが感染症予防という使命を果たせるのかにも疑問符が付いた格好で、世界的な対応策の練り直しが課題となっている。
 今回の調査報告書は、ウイルスの発生源として、①動物から中間宿主(別の動物)を介してヒトに感染、②動物からヒトに直接感染、③冷凍食品のパッケージに付着して海外から中国に持ち込まれた、④中国のウイルス研究所から流出した、――の4つのシナリオを紹介、この順に可能性が高いと結論付けた。しかし、いずれも状況証拠を並べただけで、推測の域を出ていない。
 驚くべきことに、WHOを率いるテドロス事務局長自身が報告書発表の席で、その不備を列挙する始末だった。「調査団は生データの入手で困難に直面した」「調査が十分だったとは思わない」「ウイルス研究所からの流出説は更なる調査が必要だ」「報告書は重要な一歩だが、これで終わりではない」「発生源をまだ発見していない」といった具合である。
 補足すると、報告書のサマリーには、「2019年10月と11月に武漢で報告されていた呼吸器疾患の事例は新型コロナではなかった」とか、「輸入した冷凍食品からウイルスが流入した可能性が考えられる。調査を東南アジアなどで続ける必要がある」といった中国側の言い分を書き込んだとみられる記述も散見される。ウイルスの起源が武漢でないと印象付けようという表現になっているのだ。
 米国のトランプ前政権は国際慣行に反して、新型コロナを「中国ウイルス」と呼び、いたずらに中国を悪者にした。一方、中国も初動から情報開示を怠り、今回の報告書への関与も含めて強圧的な対応を見せて、国際社会からの信頼を回復する術を失っている。このままでは、国際社会とWHOは新たな感染症に対して協力と連携をできないだろう。人類は感染症に立ち向かう前に、国際政治の駆け引きで共倒れになりかねない状況にある。

2021年 4月 5日

COLUMN

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