一般社団法人 グローカル政策研究所

町田徹 21世紀のエピグラム

新たな米大統領令のリスクを過小評価するな!

 欧州連合(EU)に追随して米国も導入の検討に入った輸入炭素税に続く、新たな通商・貿易分野のかく乱要因になるのだろうか―ー。
 世界的に不足している半導体、希少な天然資源のレアアース、戦略物資の電気自動車などの電池、そして医薬品の原材料という重要部材4品目について、バイデン米大統領は2月24日、「価値観を共有しない国」に調達を依存すべきではない」として、中国に依存している現状を見直して安定的に調達できるサプライチェーン(供給網)の確立を求める大統領令に署名した。
 これに対して、中国外務省の趙立堅報道官はすかさず、翌25日の記者会見で警戒感を露わにして「市場経済の原則と自由貿易のルールを尊重するように望む」と、まるで自国が社会主義国家であることを忘れたかのようなロジックを持ち出して米政権を強くけん制した。
 この大統領令は、米政府機関を対象に、100日以内にサプライチェーンを見直したうえで、国内での生産促進や同盟国を通じた入手など安定的に調達するための方策を検討するよう命じるものだ。これ以外にも、公衆衛生や情報通信などの6分野について、1年以内にサプライチェーンを見直すよう指示している。
 米国では、議会も国民も中国への警戒感が強い。こうしたムードを無視できず、バイデン政権もトランプ前政権と同様に、対中強硬路線を貫く姿勢を鮮明にした格好だ。鉄鋼やアルミニウムのダンピング問題に端を発して、何かというと制裁関税をちらつかせ、米中貿易戦争を煽った前政権に比べれば、初動のアプローチとしては穏健に見える。が、決して警戒を怠れる動きではない。
 天然資源のレアアースのように埋蔵量の多くを中国が握っているものもあり、サプライチェーンの実現が容易に進むとは限らないからだ。
 そこで、気掛かりなのが、米政府高官が「輸入制限も選択肢」と指摘しているとの新聞報道だ。素直に考えれば、中国産の部材を使ったものは、日本製品であっても輸入制限の対象になるリスクがあることになる。
 日本政府と日本企業は、思わぬ形で国益が損なわれる事態になることがないよう、米政権の動きをしっかりとモニターして、迅速に対応することが求められそうだ。

2021年 3月 1日

COLUMN

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