一般社団法人 グローカル政策研究所

町田徹 21世紀のエピグラム

SNSを通じた「共闘買い」に伴う株価の乱高下
新たなルールや規制作りよりも重要なこととは?

 今月初めにかけて、ゲーム小売業「ゲームストップ」株を中心に株価が乱高下して米国市場が揺れた。きっかけは、個人投資家がSNS「レディット」を通じて「金持ちを締めあげよう」などと呼び掛け、「共闘買い」を始めたことだ。慌てたヘッジファンド「シトロン・リサーチ」などが買い戻し、株価はさらに急騰した。が、証券会社ロビンフッド・マーケットが決済機関に預託する保証金不足に陥り、それらの銘柄の売買を制限したことから、一転して株価が急落する場面もあった。
 この騒動が、昔から日本でもあった“仕手戦”と違うのは、①SNSの普及によって個人が共闘して売買できるようになった、②スマホ専業の証券会社が登場、手数料無料で1ドル単位の手軽な投資を可能にした――ことから、にわか投資家が多く参戦してプロの大口投資家に対峙した点だろう。
 売買戦略としては、株価を吊り上げて空売り筋を追い込む手法「ショート・スクイーズ(空売りの締め上げ)」は古くからあるし、空売り筋の買い戻しによる急騰には「踏み上げ」という呼称もついている。
 ただ、財務省や証券取引委員会といった米当局は黙認できず調査を開始。SNSを通じた共闘を禁じ、空売りをガラス張りにする透明化策を講じて、市場の信頼と安定を取り戻したい考えと伝えられている。
 しかし、SNSやスマホが新しい時代の幕を開けた以上、そうした発想や手法での解決は難しそうだ。というのは、参加した多くの個人投資家は、格差社会に不満を持ち、損失を覚悟で、敵であるエスタブリッシュメントを攻撃する感覚を持っていたというからだ。
 格差社会の是正は重要だ。が、その一方で、誰に対してでも開かれた株式市場は自由経済と資本主義の象徴で、不可侵な存在である。市場を麻痺させかねない今回のような騒ぎを繰り返させないためには、容易ではないが、市場は公共財だという意識を幅広く共有して貰うことこそ重要なのではないだろうか。

2021年 2月 8日

COLUMN

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