一般社団法人 グローカル政策研究所

町田徹 21世紀のエピグラム

深刻なワクチン確保の遅れ

 ワクチン接種担当の河野規制改革担当大臣が1月22日の記者会見で、前日の坂井官房副長官の発言を削除すると言い放った。削除されたのは、新型コロナウイルス感染症危機からの脱却に不可欠とされるワクチン確保を巡る発言で、「6月までに対象となる全ての国民に必要な数量の確保を見込んでいる」というものだ。
 削除の背景にあったのが、政府とワクチン供給元の米ファイザー社との契約の変更だ。昨年末の契約(基本合意)で「6月までに1億2000万回分(6000万人分)の供給を受ける」となっていたのが、今月20日の正式契約で「年内に1億4400万回」と変わり、想定期限内に必要な量が確保できず、接種スケジュールが遅れかねないという。
 菅総理は先の施政方針演説で「できる限り、2月下旬までに接種を開始できるよう準備します」と力説したが、危うい状況なのだ。
 実は、見込み違いが無くても、日本は大きく遅れをとっていた。世界保健機関(WHO)のテドロス事務局長の18日の記者会見での発言によると、それまでに先進国を中心に49カ国で3900万回のワクチン接種が行われたほか、わずか25回分だが低所得国にもワクチンの供給を受けた国がある。
 日本は長年のワクチン行政の怠慢の結果、大手製薬メーカーが軒並みワクチン開発から撤退。まだコロナ用ワクチンの認可を得た企業がない。結果として、政府が供給契約を結んだ米、英両国の3社だけでなく、中国やロシア、インドの企業にも後れを取っている。
 加えて、ワクチンを開発した企業を持たない40カ国以上にも先行されたのだから、安倍前政権時代も含めた過去1年のハンドリングの悪さが悔やまれる。
 そして、バイデン米政権が発足直後に途上国向けの国際的なワクチン供給の枠組みである「COVAX」への参加を決め、低中所得国でも2月末までに接種が始まり、年内に20億回分の接種が可能になったとことで、日本の窮地はより深刻になりつつある。
 集団免疫が築けず感染を収束できなければ、各国から往来を拒まれて、ビジネスチャンスを失い、容易には回復できない経済的ダメージを負うリスクが現実になりかねないのだ。幕末から注力してきたはずの公衆衛生政策でこの20、30年間、手を抜いてきたことと、この1年間の危機感の乏しさで、日本は計り知れない代償を背負うかもしれない。

2021年 1月25日

COLUMN

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