一般社団法人 グローカル政策研究所

町田徹 21世紀のエピグラム

水素ビジネスで第5次産業革命を!

 2021年の年頭に当たって、皆さんはどんな初夢をご覧になっただろうか。筆者は、最近にわかに脚光を浴び始めた水素ビジネスで、日本企業が第5次産業革命をリードする夢を見た。
 周知の通り、水素ビジネスは折に触れて注目を集めてきた。1980年代から期待されてきた燃料電池車はその典型だ。
 H2O(水)から生成できるので、資源として無限で廉価になる可能性がある。
 使用後に排出されるのも主にH2Oで、化石燃料のようにCO2を排出しないクリーンエネルギーだ。
 水素爆弾の連想から危険だと思う人もいるが、比重が空気より軽く拡散し易いので、よほど圧縮しない限り危険は小さい。タンクの技術も確立されてきた。
 何より、改めて注目され始めたのは、用途の広さだ。昨年12月に政府が決定した「グリーン成長戦略」でも、化石燃料と混ぜて燃やすことでCO2排出を減らす火力発電効率化の切り札「水素産業」として14の重点産業の一つに選ばれた。「グリーン成長戦略」は自動車、船舶、航空機の燃料や、CO2大量排出型の高炉の原材料である石炭に代わるものとしても期待している。
 世界を見回して痛感するのは、まだ水素ビジネスには、第4次産業革命の担い手とされる米国のGAFAMや中国のBAT、電気自動車用リチウムイオン電池の米テスラ社のような巨大プラットフォーマーが存在しないことだ。世界がしのぎを削っているとはいえ、日本企業にも十分に商機と勝機がある。
 水素還元製鉄や燃料電池車については、過去20年前後、これといった進展がなく、既存の高炉やガソリン車、ハイブリッド車を守りたい企業がゼロエミッションに取り組んでいるフリをする隠れ蓑的な存在に過ぎないとの批判は今なお根強い。
 しかし、相次ぐ異常気象や、欧州、米国、中国など主要国・地域の抜本的な政策姿勢の転換によって、ゼロエミッションは従来と違い、世界に共通する喫緊の課題に浮上してきた。国内では、千代田化工建設のように画期的な輸送技術を開発したり、三菱重工業のように関連分野のすべてで海外の進んだベンチャービジネスに投資する企業も現れた。今年は日本の“水素元年”だというところで夢は覚めてしまったが、ただの初夢で終わってほしくないとの気持ちを新たにした。

2021年 1月 4日

COLUMN

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