一般社団法人 グローカル政策研究所

町田徹 21世紀のエピグラム

ゼロエミッションの実現へ、自動車8税を廃止して炭素税の導入を

 晩秋恒例の税制改正論議が水面下で活発に行われている。自動車関連で、新型コロナウイルス感染症危機の煽りで懸案の抜本改正が見送られ、消費税と2重課税状態の環境性能割(旧自動車取得税)の廃止論議が封印される一方で、サポカー補助金、環境性能割の臨時税率軽減措置、エコカー減税などの打ち切りや対象絞り込みが焦点に浮上してきた。いずれもユーザーや自動車業界にとっては容認できない話だが、やはり抜本見直しの先送りが最も深刻な問題と言わざるを得ない。
 健全財政論者の筆者から見ても、自動車ユーザーの税負担の重さは目に余る。日本自動車工業会の試算では、消費者が排気量2000CC、車両価格240万円、車両重量1.5トンの車を保有して平均的な走行をした場合、13年間の税負担は約180万円にもなる。保有に必要な税金だけで62.8万円にのぼり、米国の30倍、ドイツの4.8倍、英国の2.2倍に達している。その結果、日本自動車連盟のアンケート調査では、自動車ユーザーの98%が「負担に感じる」と不満を募らせているという。
 国と地方の今年度の税収に目を転じると、総額108兆9885億円のうち、自動車関係諸税は8兆8092億円と8.1%を占めている。自動車関係諸税は、消費税、法人税、所得税次ぐ財源の大黒柱になっているのだ。
 一方、かねて懸案の低公害車のための税制優遇は雀の涙だ。税制優遇額を全部足し合わせても年間合計で2000億円弱と自動車関連の税収の2%にも満たない。
 もともと自動車そのものが高額商品で重い税負担があるうえ、税制優遇は些少とあって、新しい技術が満載で相対的に高価な低公害車は普及が進まない。自動車検査登録情報協会によると、今年3月末現在の自動車保有台数は8184万9782万台。このうち温暖化ガスを出さないEVとFCVはそれぞれ11万9159台、3758台と、合わせても全体の0.15%しかない。温暖化ガスの排出が比較的少ないPHEV、ハイブリッド、天然ガス自動車などを加えても945万7448台で、全体の11.55%にとどまっている。
 菅総理が先の所信方針演説で2050年までにゼロエミッションを実現すると温暖化ガス削減に舵を切ったのだから、雀の涙の税制優遇を打ち切るような議論にはピリオドを打つべきだ。ここは消費税を除くと8種類ある自動車関連税を全廃し、代わりにガソリンに着目した炭素税を導入して簡素化と負担軽減を両立しつつ、ユーザーの無公害車シフトを促す戦略的な税制改革が必要だ。

2020年11月30日

COLUMN

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