一般社団法人 グローカル政策研究所

町田徹 21世紀のエピグラム

菅総理が表明したカーボンニュートラルの最大の課題とは?

 菅義偉総理が先月、就任後初の所信表明演説で、「2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、カーボンニュートラルを目指す」と宣言した。官房長官時代は「選挙で票にならないものを持って来るな」と、原発再稼働を盛り込む必要のある地球温暖化対策を忌避していたと漏れ伝わっており、まさに“君子豹変”の感がある。
だが、具体策作りはこれからで、技術、コスト両面で課題が山積みだ。その中でも重要なのは、石炭火力を敵視する環境NGOなど再生可能エネルギー至上主義を唱える人々の理解をどう得ていくかではないだろうか。
 ここで想起したいのが、昨年12月、スペインのマドリードで開かれた第25回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP25)だ。会議では、欧州連合(EU)が主要メンバーとして初めて2050年にゼロエミッションを実現すると公約したのに対し、日本は従来の2050年までに8割削減という目標から踏み出せなかったばかりか、非効率な石炭火力発電の見直し策にすら言及できなかった。その姿勢に、皮肉を込めて、小泉環境大臣が環境NGOの団体から化石賞を贈呈される不名誉に浴したのだった。
 石炭火力など化石燃料を使う火力発電を悪と決め付けて敵視する風潮は、こうしたNGOだけでなく、日本などの政府関係者の間でも皆無とは言えない。
 しかし、火力偏重となっている送電線網を再生可能エネルギー用に再構築できたとしても、効率的に電気を溜めておく電池の開発・確保は容易ではない。気候の制約から再生可能エネルギー適地が少ない日本にとって、バックアップ電源として必要な火力や原子力をゼロにするのは難しいだろう。 石炭火力ならば、CO2を出さないアンモニアとの混焼や地下埋設、原子力ならば不断の安全を追求しながら、当分の間、使い続けなければならない電源なのである。
 これまで、ややもすれば、こうした事情が、電力会社や鉄鋼会社、紙・パルプ会社などによって、コントロールし易い電源である火力や原子力を温存を優先するための方便として過大に語られてきたきらいがあった。
 これからは、技術革新やコストの動向をガラス張りにしたうえで、化石燃料のゼロエミッション化に全力を注ぎつつ、安定供給のためのバックアップとして存続させることに国際社会の理解を深める努力が欠かせない。

2020年11月2日

COLUMN

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