一般社団法人 グローカル政策研究所

町田徹 21世紀のエピグラム

ドイツで週休3日制が注目されるワケ

 報道によると、ドイツで週休3日制(週4日勤務)が安定雇用を維持する切り札として関心の的になっている。きっかけは、ドイツ経済の屋台骨を支える自動車産業の苦境だ。新型コロナウイルス感染症のパンデミックで4月の乗用車生産が前年同月比97%減に落ち込み、ダイムラーでさえ2、3万人の人員削減を模索する中で、同国最大の産業別労働組合IGメタルがワークシェアリングの観点から提案したという。経営側が同じ所得水準は保障できないと難色を示す一方で、ハイル労働・社会大臣は労働時間削減と部分的な賃金補償の組み合わせならば「適切な手段」になり得ると理解を示しているという。
 週休3日制と言えば、日本でも東芝が6月から一部の工場で試みているが、ドイツのケースとは狙いと中味が違う。東芝は、新型コロナの感染防止策として従業員の出社日数を減らすのが狙いだ。トータルでこれまでと同じ時間働くことを条件に従来通りの給料を支払うという。
 週休3日制とは別に、雇用維持策として、需要の減少に悩む企業が自社の従業員を一時的に、巣籠り特需などに沸き人手不足に悩む企業に融通する「雇用シェアリング」も注目されている。料理宅配業の出前館など4社が今年4月、休業中の飲食店のスタッフを一時的に雇う「緊急雇用シェア」を始めたほか、埼玉県は中小企業のマッチングに乗り出す考えと聞く。
 残された時間は決して長くない。先週発表の総務省の労働力調査によると、8月の完全失業率と完全失業者数は3年3か月ぶりの水準になり、懸念されていた雇用環境の悪化が現実味を帯びてきた。一方、2度の補正予算編成で今年度の政府の歳出は160兆円に膨張。深刻な失業の顕在化を抑える効果があったとはいえ、12月末に期限を迎える助成率拡大と助成期間延長を柱にした雇用調整助成金の特例措置の更新は容易に打てる施策ではなくなっている。加えて、コロナのパンデミックには、第4次産業革命で大きなうねりになりつつあるDX(デジタル・トランスフォーメーション)を加速する側面がある。パンデミックがいずれ収束しても、雇用環境が以前とまったく同じ状態に戻るとは考えにくいのだ。
 航空大手ANAホールディングスのような大企業が我れ先に雇用調整助成金の受給に走るのは、世論の理解を得にくい行動だ。安易な政府への依存は慎んで、雇用慣行の見直しなど自らの自助努力を進めるべきである。

2020年10月5日

COLUMN

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