一般社団法人 グローカル政策研究所

町田徹 21世紀のエピグラム

3年で最大5割の値下げも、携帯に求めれる次の課題は?

 携帯電話料金は本当に下がるのか――。このところテレビや雑誌から筆者が頻繁にこの質問を受けている。菅総理が就任会見で「(携帯電話大手3社が)世界でも高い料金で20%もの営業利益を上げ続けている」と改めて引き下げに意欲を見せたからだろう。
 だが、この質問は愚問である。料金はすでに急ピッチで下がり始めている。高いと言われる大容量データ通信を含むサービスをみても、今年3月の民間シンクタンクの6ヵ国調査で日本は高い方から3番目に過ぎない。総務省の消費支出調査を見ても、携帯電話の通信料と携帯電話機の合計金額が7月に1万872円と直近のピークだった昨年5月に比べてほぼ1割低下した。端緒になったのは、NTTドコモが昨年6月に他の大手(auブランドのKDDIとソフトバンク・モバイル)に先駆けて導入した新料金プランだ。当時、新聞各紙が最大4割の値下げになると指摘したプランである。
 7月以降は、格安スマホ会社(MVNOのこと)の安売り攻勢が加わった。例えば、日本通信は音声通話のかけ放題と上限3ギガバイトのデータ通信のセットで月額2480円(税別)の新プランを投入した。これは大幅値下げをしたドコモの6割安という激安プランだ。音声通話は不要だし、メールだけなのでデータ通信も1ギガでよいという人にはインターネットイニシアティブ(IIJ)が8月から月額480円プランを提供している。KDDIのサブブランドUQモバイルやソフトバンクのYモバイルも日本通信並みのプランの販売キャンペーンを打ち始めた。
 大幅な値下げが可能になったのは、大手に義務付けている格安会社への通信網貸与の料金(「接続料」という)算定法の変更だ。技術革新の早さに着目、今年度から投入コストではなく直近の市場価格で設備原価を計算することに変えた結果なのである。この接続料は今後3年間で最大5割下がり、大手自身へのさらなる値下げ圧力になると見込まれている。総理が官房長官時代から唱えて来た携帯値下げは種まきを終え、収穫期に入ったのだ。
 厄介なのは、さらなる値下げ圧力を求める向きが多いことだ。先の5G(第5世代携帯電話)サービスの開始で、米国、中国、韓国に後れを取ったことでも明らかなように、大手の収益力をこれ以上痛めれば、通信インフラの整備が益々遅れて、産業全体が新型コロナウイルス感染症の収束後に不可欠なデジタル革命に乗り遅れかねない。

2020年9月28日

COLUMN

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