一般社団法人 グローカル政策研究所

町田徹 21世紀のエピグラム

新総理が最初に取り組むべきこと

 安倍晋三総理が持病の悪化を理由に辞意を表明したことを受けて、菅義偉官房長官、岸田文雄政調会長、石破茂元幹事長が三つ巴の後継レースを繰り広げている。新総裁は9月14日に、新総理は臨時国会の召集日とされる同16日に決まる見通しだ。一方、新型コロナウイルス・ショックの影響は大きく、日本経済の潜在成長力低下という病に拍車をかけている。新しい総理が舵取りを誤れば、10年単位でゼロ成長やマイナス成長に喘ぐことになりかねない岐路に立たされているのである。
 例えば、英経済誌エコノミストの情報・調査部門の予測によると、日、米、欧のG7諸国は2020年7~9月期に実質GDPの成長率がそろって前期比でプラスに反転するものの、各国と日本の間にはその反発力でかなりの格差が生じるという。具体的に言うと、米国が2017年の経済規模に、英国、ドイツ、フランス、カナダの4ヵ国が2016年の経済規模にそれぞれ速やかに回復するのと対照的に、日本は0.4%増とほぼ横ばいで2012年初頭の水準から抜け出せないと分析しているのだ。こうした中で再感染の直撃を受ければ経済はひとたまりもない。
では、こうした停滞の長期化リスクを軽減するカギは何だろうか。まずは、この秋から冬にかけての感染再拡大に備えて、強制力を以って患者の隔離できるように新型コロナ特別措置法の再改正を実現することだと筆者はみている。というのは、ピンポイントのクラスター潰しを速みやかにできないと、広い地域にだらだらと中途半端な自粛を要請せざるを得ず、結果的に人の移動が制限され、経済の停滞を長引かせかねないからだ。
思い起こしていただきたい。東京の新宿・歌舞伎町のホストクラブやキャバクラといった接待を伴う飲食店が感染の温床と早くから、再三、指摘されていたにもかかわらず、軽症者を中心に隔離がままならず、感染拡大の原因に繋がったとされていることを。
そこで、特措法再改正によって感染者の隔離をきちんと担保し、早期に感染再拡大の芽を積み、活発な移動を伴う経済活動の本格的再開に繋げることが急務なのである。もちろん医師の勧告を条件とするなど私権の制限への安全弁は欠かせないが、強力なツールが無くては、政府や経済界がこれまで主張してきたほど「感染予防と経済成長を両立する」ことは容易ではないことも明らかだ。そして、3つ巴の闘いを繰り広げる3人の政治家の誰が新しい総理・総裁に選ばれても、特措法再改正が最重要課題の一つであることに変わりはい。
その次に課題になるのは、アベノミクスで必要性と方向性を示しながらも、踏み込み不足で中途半端に終わって来た成長戦略で成果をあげることだ。この中には、人口減少に歯止めをかけるには不十分な移民政策の転換や、エネルギー・原子力政策の再構築、総じて既得権の温存色が強過ぎる経済的な参入規制の改革などが含まれる。アベノミクスの財政出動や金融緩和は成長期待を醸成する面があったが、それだけではまだ不十分である。

2020年9月7日

COLUMN

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