一般社団法人 グローカル政策研究所

町田徹 21世紀のエピグラム

長引く金融緩和には、ゾンビ企業の跋扈という弊害も。

 日本のゾンビ企業は約 16.5 万社――。民間信用調査機関の帝国データバンクは7月27日、「実質的に倒産状態であるにも関わらず、なお営業を継続しているゾンビ企業」が、2020年度に全国で「16.5万社に達した」との調査・推計を発表した。
 調査は、こうしたゾンビ企業は、「対外的には、『支払うべきものを支払わない』債務不履行の状態が続いている企業、バランスシート上で累積損失によって債務超過の状態にある企業などが該当する」としたうえで、「銀行融資の返済条件を変更するリスケ企業や過剰債務を抱える非効率企業も当てはまろう」と述べている。
 ここで見逃せないのが、長引く日銀の金融緩和が、整理・淘汰されるべきゾンビ企業の延命を容易にしている可能性だ。
 このところ日銀の金融緩和に対しては、円安を助長して、国富の海外への流出に拍車をかけているとの批判がよく聞かれたが、ゾンビ企業の多さも日銀の金融政策を評価する際の大きな要素ではないだろうか。

 帝国データバンクの調査・分析は、数量的にゾンビ企業の実態を把握するため、国際決済銀行(BIS)のゾンビ企業の定義である「3 年以上に渡ってインタレスト・カバレッジ・レシオ(ICR)1未満、かつ設立 10 年以上」の会社という基準を採用して、分析を進めたという。
 これを、同社の保有する企業財務データベース「COSMOS1」でスクリーニングすると、「3 年連続で ICR が判明しており、かつ設立 10 年以上」企業数は 10 万 6,918 社。このうち「3 年連続で ICR が 1 未満」の企業が 1 万 2,037 社だったことから、ゾンビ企業率を 11.3%と推計。これを、同社が、活動中の企業として把握している企業数に当てはめて、2020年度のゾンビ企業数が約 16.5 万社という推計を得たという。
 振り返ると、ゾンビ企業数は、リーマンショックから3年後の2011年度に27.3万社でピークを付けた。その後2016年度以降は14万社台で推移してきたが、新型コロナウイルス感染症の影響で2020年度は、再び大きな増加となった。ちなみに、業種別の内訳をみると、「建設」業が構成比 で34.3%と最も多く、次いで「製造」業が20.0%、「卸売」業が18.9%、「サービス」業が10.4%と続いている。

 あわせて、この調査のポイントは、同社が今年 2 月に実施した「新型コロナ関連融資に関する企業の意識調査」に回答した 1 万 1562社を今回の試算に重ねると、ゾンビ企業に当たる企業が 417 社含まれ、コロナ関連融資を「借りた・借りている」と回答した企業が79.6%と 8 割近くに達していることだ。全体の 52.6%を大きく上回っているという。こうした状況は、ゾンビ企業が一般企業よりも資金繰りにより苦慮しており、コロナ関連融資で乗り切ろうとしている実態が浮かびあがったとしている。
 また、コロナ関連融資を「現在借りている」企業に対し今後の返済見通しについて尋ねたところ、「返済に不安」があると回答した企業は全体の 9.0%だったのに対し、ゾンビ企業に限定すると、その割合は 15.5%にのぼった。こうしたことから、調査は「コロナ関連融資によって多くのゾンビ企業が延命している可能性がうかがえる」と断じている。

 ここで、もうひとつ見逃せないのは、2016年度以降の4年間に、ゾンビ企業数が14.5~14.8万社という高水準で推移していたことではないだろうか。筆者は、この点について、長引く日銀の大規模金融緩和が、ゾンビ企業の市場からの撤退を免れさせてきたものと考える。平時の金融情勢に戻っていれば、とても利払いに耐えられなかったはずなのに、日銀の金融緩和策によって、これだけ多くのゾンビ企業が存続し続けることが可能になったのである。
 日本では、企業の開業率が欧米の半分程度に停滞しているとされている。この背景にあるのが、やはり欧米の半分程度とされる低い廃業率だ。つまり、本来、市場から退場すべき企業が退場を迫られないから、新たな企業が生まれにくいと考えられている。

 日銀はかつてバブル期に引き締めるべき金融を引き締めるのに遅れて、不動産や株式のバブルを大きく膨らませた“前科”がある。
 今回も引き締めるべき金融を引き締め遅れることで、ゾンビ企業の延命を許し、経済の新陳代謝を大きく遅らせる失敗を犯すことになるのだろうか。

2022年08月01日

COLUMN

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