一般社団法人 グローカル政策研究所

町田徹 21世紀のエピグラム

乳幼児向けコロナワクチン、
早期の緊急使用の認可が焦点に。

 この原稿を書いている6月25日まで、東京都の新型コロナウイルスの感染確認者が8日連続で前の週の同じ曜日を上回った。
 7日間の感染者数の平均は、今年2月14日の6914人をピークとしてほぼ右肩下がりで減少を続け、6月14日に970人まで低下した。が、その後、増加に転じている。
 6月25日の7日間平均は1963人に過ぎず、ピーク時に比べれば3分の1にも満たない。こうしたコラムは「心配し過ぎだ」とおしかりを受けるかもしれない。しかし、対応が遅れて感染が広がってからでは、必要な行動制限の期間が長引くなど、より事態が深刻化することはこれまでの経験からも明らかだ。
 第7波を回避する観点からも重要なポイントのひとつは、乳幼児や子供へのワクチン接種ではないかと思われる。

 米国では、オミクロン株の新たな派生型の比率が拡大しており、7日移動平均で10万人前後の感染が続いている。そうした中で、このほど、乳幼児を対象に新型コロナウイルス・ワクチンの接種が始まった。米食品医薬品局(FDA)が6月17日、生後6カ月以降の乳幼児を対象に、ファイザー製とモデルナ製の新型コロナウイルス・ワクチンの緊急使用許可を出したことを受けた措置である。
 各地のワクチン接種会場では、乳幼児たちが泣きじゃくる声が響き渡る一方で、わが子の接種を終えた親たちは安どの表情を浮かべていたという。

 とはいえ、アメリカでも乳幼児を持つ親の気持ちは複雑だ。5歳未満の子に対するワクチン接種について、カイザー・ファミリー財団が4月に実施した調査によると、「絶対接種しない」という保護者が27%に達し、38%の保護者が「様子見する」と答えたという。「すぐに接種させる」という保護者はわずか18%に過ぎない。
 こうした事態を受けて、バイデン大統領は6月21日、首都ワシントンDCの子ども向け接種会場を視察に訪れ、生後6カ月以降の乳幼児が接種できるようになったことに言及、「ほぼすべての国民がワクチンを利用できるようになった」「これは歴史的な節目であり、記念すべき前進だ」と強調した。連邦政府やニューヨーク市などの自治体が一体となって、ワクチン接種のメリットを理解してもらうため、保護者たちへの情報発信に力を入れているという。

 一方、日本の喫緊の課題は、乳幼児とその上の世代にあたる「5歳以上11歳以下の小児」へのワクチン接種だ。
 総理官邸のホームページによると、6月24日段階では、この世代で2回のワクチンの接種を終えた子は16.4%にとどまっている。これは子供向けに使用が認められているのがファイザー製のみで、モデルナ製が認められていないことの影響も大きいとみられている。
 加えて、「生後6カ月以上、5歳未満」の乳幼児については、使用が認められるワクチンが存在しない。

 こうした中で、アメリカのような積極的な対応の必要性を指摘する声もあるが、政府の態度は素っ気ない。
 松野官房長官は6月16日の記者会見で、「今後、ファイザー社とモデルナ社より厚生労働省に対して、必要な薬事上の手続きがなされれば、有効性や安全性を適切に確認するなどの対応がなされる」と述べるにとどめたのだ。
 この製薬会社任せの姿勢は、菅政権以来、積極的なワクチン接種の推奨で社会的免疫の獲得によるコロナ危機の克服を目指してきた日本政府の対応としては違和感を持たざるを得ない。
 7月10日投開票の参議院議員選挙を控えて選挙活動が繰り広げられている最中だけに、新型コロナの第7波という話題は、たとえ予防の話であっても触れたくないという思いが政府には強いのかもしれない。
 しかし、事は、1昨年から猛威をふるい続けてきた感染症の問題だ。
 今年初めには、感染や濃厚接触による保育所の臨時救援する事態も生じた時期があった。子供と社会を守るため、せめて使用できるワクチンを明確にして保護者に選択肢を与えるべきではないだろうか。しっかりとした政策論争を望みたい。

2022年06月27日

COLUMN

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