一般社団法人 グローカル政策研究所

町田徹 21世紀のエピグラム

フェアトレード、
リスクは、ユニクロのシャツに限らない!

 中国・新疆ウイグル自治区で製造された疑いが払しょくされていない――。米国土安全保障省の税関・国境取締局(CBP)は5月10日付の文書でこう述べて、ロサンゼルス港の税関がユニクロの男性用シャツの輸入を差し止めたうえ、運営主体ファーストリテイリングの異議を却下したことを明らかにした。
 ユニクロと言えば、高級品志向とは一線を画し、「究極の普段着」の追求によって驚異的な成功を収めてきたブランドである。ファーストリテイリングは、早くからコストを抑えるために、原材料の調達地や加工(縫製)の拠点を中国や東南アジアに幅広く求めたことが災いする”事件“に遭遇した経験がある。そして、その反省から、フェアトレード対応を積極化しており、日本の繊維分野で最も進んだ地位を確立した企業の一つと見なされていた。それにもかかわらず、CBPは今回、同社の対応が不十分だと断定しているのである。
 このトラブルの帰趨はまだわからないが、厄介なのは、フェアトレードの対象が、繊維といった特定の業種の問題でも、中国の新疆ウイグル自治区といった地域を限定した問題でもないことだ。
 例えば、米スポーツ用品メーカー大手のナイキが1997年に問われた「チャイルドレーバー」(児童労働)のケースでは、生産委託先がインドネシアやベトナムだった。問題として取り上げたのも、税関ではない。米NGOの批判をきっかけに世界的な不買運動が沸き起こり、経営が大打撃を受けるという展開を辿った。
 また、フェアトレードの問題では繊維に限らず、コーヒーや茶、はちみつ、スパイス、フルーツといった農作物も批判の対象になることが多い。
 さらにIT企業も無関係ではいられない。リチウムイオン電池用のレアメタル、コバルトの採掘のため、アフリカ中部のコンゴでは児童が大人は入れない狭い坑道で危険かつ過酷な労働を強いらていれる問題が指摘されてきた。2019年12月には、これらの問題を黙認しているとして、アップルやアルファベット(グーグルの親会社)など米IT企業5社が提訴されたのだ。
 貿易立国・日本の企業は自社のサプライチェーンがフェアトレードで完結しているか、それをいつでも直ちに証明できる体制を構築できているか、確認と対策が急務となっている。

2021年 5月24日

COLUMN

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