一般社団法人 グローカル政策研究所

町田徹 21世紀のエピグラム

気候変動対策 最初に取り組まなければならない重い課題とは。

 気候変動対策を巡って、国連のグテレス事務総長が国際組織「脱石炭連合」の3月2日の会合に寄せたビデオ演説で、経済協力開発機構(OECD)加盟の先進国に対して、「2030年までに石炭火力発電を段階的に廃止するよう求める」と発言した。これは日本にとっては、実に悩ましい発言だ。
 というのも、気候変動対策と言えば、世界的に発電を再生可能エネルギーか原子力のいずれかにシフトすることが半ば常識となっている。このため、グテレス事務総長は、主要7カ国(G7)に対して、6月に開くG7サミット(首脳会議)までに具体的な石炭火力発電の廃止計画を策定して、脱炭素の実現を主導するよう要請したのである。
 ところが、日本の状況は、文字通り“真逆”だ。菅総理の昨年10月26日の所信表明演説における「2050カーボンニュートラル」宣言以来、このところ本格化している議論はいずれも、従来にない工夫をこらすことによって、化石燃料を使い続けられるようにすることが気候変動対策の前提条件になっているからだ。
 例えば、昨年12月21日に経済産業省が同省の諮問会議に示した「エネルギー基本計画」の「2050年の電源構成案」をみると、太陽光や風力、水力といった再生可能エネルギーを2019年の2.6~3.3倍、全体の50~60%に増やし、2019年にはなかった水素やアンモニアを混ぜて燃やす火力を10%に、そして、その他カーボンフリー火力と原子力をあわせて今の4.8倍の30%としているのだ。
 背景にあるのは、平地が少なく山がちという国土の地理的制約から、欧米のように、再生可能エネルギーに大幅に依存するのは、今の技術では難しいという事情がある。
 このため、日本はまず、G7サミット前の4月にバイデン米大統領主催で開かれる気候サミットから、化石燃料を使い続けながら脱炭素を進めるという選択枝を国際社会に認知させる必要があることになる。
 京都議定書後に排出権取引で日本企業を食い物にした欧州の金融筋の前例もあり、その交渉は難航が予想されるが、失敗は許されない。一定の競争力を維持できるかどうか、この交渉は日本の岐路になる瀬戸際の交渉になるはずである。

2021年 3月 8日

COLUMN

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