一般社団法人 グローカル政策研究所

町田徹 21世紀のエピグラム

米司法省の20年ぶり大型訴訟の狙いは、「次のグーグル」育成にあり

 すっかり鳴りを潜めていた米国の競争の番人・司法省が10月20日、IT大手のグーグル社を反トラスト法違反容疑でワシントン連邦地裁に提訴した。これは、この分野でほぼ20年ぶりの大型裁判だ。
 背景として、一部メディアが報じているのは、投票まで残りわずかとなった大統領選挙で苦戦しているトランプ大統領が支持拡大策として提訴を命じたという説だ。しかし、提訴は、テキサスやフロリダなど全米11州と連携して、少なくとも1年以上をかけた調査に基づいて行われたとされる。トランプ命令説は説得力に乏しい。
 むしろ、想起すべきは、1998年創業のグーグルのビジネスモデルだ。早くから検索サービスを中核に据え、吸い上げた個人情報をターゲット広告などに転用、急成長を遂げた。PC向けのサービスから入り、スマートフォン時代に存在感を強めてきた。司法省によると、検索の1日の利用者は数10億人に及び、米国内シェアは9割。企業価値は1兆ドルを超え、世界有数の金持ち会社だ。
 この成功をもたらしたのは、マイクロソフトが1998年に提訴された反トラスト法裁判で受けた会社分割命令を回避するため、技術情報の開示など様々な開放策を打ち出したことだ。この過程で、ライバル各社がそれぞれのアプリやサービスを市場に供給することが格段に容易になった。つまり、グーグルの成功要因のひとつがマイクロソフト裁判なのである。
 その裁判からほぼ20年の歳月が経過し、状況は一変した。マイクロソフトに代わって、スマホ用OSでは、グーグルが「アンドロイド」を擁し、「iOS」を持つアップルと市場を二分、支配力をほしいままにしている。スマホメーカーへのアンドロイドの無償提供や、アップルとの長期契約によって、スマホ画面の目立つ場所にグーグルの検索サービスをプレインストール(工場出荷段階での標準装備)させたり、ユーザーが削除できなくしたり、他社の検索サービスを締めだしたりしてきたという。
結果は「選択の自由」を奪い、消費者の利益を奪うことに繋がり、グーグルはOSとブラウザを抱き合わせ販売したマイクロソフトと同じパターンの違法行為を繰り返している、と司法省は主張している。  マイクロソフト裁判がグーグルに成功をもたらしたように、今度はグーグルに待ったをかけないと、新たな時代を担う「次のグーグル」は生まれないというのである。

2020年10月26日

COLUMN

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